その嘘に踊れ
「…いた」
男が指でレイバンを少しズラし、低く響く声で呟いた。
あらら?
ただただボーっと眺めてただけじゃなかったの。
男が視界に捉えたのは、上品な白のセーラー服を着た小柄な少女…
って、まじか。
ほんとにアレか?
だって地味じゃね?
まさに背景ってカンジのコじゃね?
地味は地味でも、レンズのブ厚い丸眼鏡とか、ビッチリ系三つ編みとかなら、逆にキャラは立ってるケドも。
二重だが、大きくも小さくもない丸い目。
シュっとはしているが、自己主張のない小さな鼻。
加えて薄い唇。
バランス良く整った顔立ちとも言えるが、全体的に小造りで華がない。
肩の下まである染めてもいないストレートの髪を首の後ろで一つに束ね、凹凸のなさそうな細く小さな身体でスクールバッグを抱え、俯きがちに駅へ向かう姿ときたら…
ハイ、どー見てもモブです。
本当にありがとうござ(ry
不意に、ナニカに導かれるように少女が顔を上げる。
ほんの一瞬だけ絡む、人目を引く男と人目を引かない少女の視線。
だが、ただそれだけ。
物語なんて始まらない。
多くの人々と同じく、少女にとってもその男は、記憶に残らない背景の一部に過ぎなかったのだろう。
けれど…
男にとっては違ったようだ。
彼は人波と夕闇に紛れる小さな背中を、見つめ続けていた。
熱に浮かされたような、潤んだ眼差しで。