その嘘に踊れ
非日常
アオは家路に着く。
ブックストアのロゴが入ったビニール製の袋を、左手にブラ下げて。
途中、意味もなくパチンコ屋に寄って。
街中ではそうそう注目されないが、パチンコ台を眺めながら通路を歩いていると、振り向いた現代の錬金術師たちに二度見されたりもする。
さすがに真っ昼間のパチンコ屋じゃ、見るからに外国産は珍しいデスカ。
ソーデスカ。
別に、来たくて来てンじゃねーンだから。
本当は、一刻も早く家に帰りたいンだから。
だが帰宅前に必ず、アオはパチンコ屋に寄る。
昼のパチンコ屋はいい。
店の中も店の外も、見かける人間の顔触れは決まっていて、新参者がいればすぐにわかる。
店内を一回りして。
新台の機動戦艦ナ○シコ2をしばらく打って。
30分も経たずに、アオは店を出る。
今日も、いつもと何ら変わりはない。
さぁ、もう帰ろう。
ただの一時、鎖で繋いで閉じ込めた、愛しい人が待つ家へ。
走り出してしまいそうな足をなんとか宥め、ゆっくりとマンションのエントランスに入り、エレベーターに乗って…
結局、廊下は駆け足になっちゃった。
鍵を回して玄関扉を開け、一直線に部屋の奥へ。
ノックもなく寝室に飛び込めば…
「お帰り」
フローリングの床に座り込んでパズルをしていた透子が、頬にかかる黒髪を揺らして顔を上げた。
あぁ…
彼女はココにいる。
いつもと何ら変わらない、特別な『今』だ。