その嘘に踊れ
透き通る瞳の中に顔を引きつらせたアオを囚えたまま、小さな唇を動かして透子が言う。
「ソレもドレも結局フィクションじゃない、なんてツッコみたいトコロだケド…
ラスコー○ニコフなアオが言いたいのは、そーゆーコトじゃないンだろうね」
その次に続く彼女の言葉は、いったいなんだろう?
軽蔑?
非難?
拒絶?
きっとそのどれもを、黒く美しい瞳を恐怖に凍てつかせて…
「ねェ、アオ。
この地球上には、幾つもの世界があると思わない?」
「へ?」
予想を大きく覆し、いつも通りの冷静な口調で話し始めた透子を、アオは目を丸くして見つめた。
ナニ?世界?
急にスケールでかくない?
いったいナニを言って…
「それぞれが、それぞれの世界で生きていて。
その中には、戦わなければ命を勝ち取れない世界もあって。
なのに別の世界に住む人たちは、その存在を認めようともせずに、
『どんな理由であれ殺人は大罪』だとか
『暴力は何も生み出さない』だとか
『対話が唯一の解決策』だとか
綺麗事ばかり並べて、『世界は一つ』なんて幻想を歌う」
「…」
「例えば、ある紛争地で、乱戦のさなかに兵士が無我夢中で向けた銃口の先に、ナイフを持った少年がいたとして。
少年が、無我夢中で兵士を刺し殺したとして。
アオは、ソコになんらかの罪が存在していたと思う?」