その嘘に踊れ
透子は一度言葉を切り、口を閉ざした。
その沈黙はきっと、答えを待つためのモノではない。
その証拠に、透子はアオの唇が動き出す前に…
「私はそうは思わない。
無害にも見える少年に銃を向けた兵士も。
兵士の命を奪った少年も。
人として当たり前のコトを願っただけだから。
ただ、生きたいと願っただけだから」
確固たる信念に基づく彼女自身の答えを、淡々と口にした。
「…
…
…
ハハっ
しーちゃん、ソレ日本で言っちゃ、危険思想家認定されちゃうンじゃない?」
しばらく黙り込んだ後、額に手を当ててアオは笑う。
「誰がテロリスト予備軍だ。
私は『自己完結型の身勝手な価値観で、よく知りもしない物事を推し量るのはよくない』っていう、小学校で習うようなコトを言っただけじゃない」
出した答えを一笑に付されて、透子は頬を膨らませる。
そうだね。
ソレはいかにも、先生って人種が教えてくれそうなコトだ。
そこに、幼い頃に世界を旅した経験と、現地で見聞きした知識が合わさり、彼女独特のちょっとアブナイ考え方に至ったのだろう。
『本当のコト』なんて、何一つ知らないクセに。
『別の世界に住む人たち』の一員のクセに。
なのに彼女は俺を救う。
いつだって彼女は俺を救う。
「…
ありがと」