その嘘に踊れ

舐められた片目から涙を零しながら溜め息と共に呟いた透子は、唐突に、なんの前触れもなく、もちろんスイーツ(笑)シチュエーションもなしに、アオが着るシャツの前襟を掴んで引き寄せた。

そして、不意討ちを食らってされるがままのアオの唇に、まるでぶつかるように…

ぶつかるように…




「…


なんで…」


と、アオ。


「なんで、なんて、アオが考える必要ない。
このキスの意味も価値も、私が勝手に決める」


と、透子。

あー…

そう?
キスなンだ?

とめどなく事故の様相でしたケドも?
目すら閉じてませんでしたケドも?

前後の会話にだって、色気もムードも皆無でしたケドも?

『衝突』ではなく、『キス』と呼ぶモノだったンだ?

だが、たとえそんなんでも、アオにとっては…

驚天動地。
天変地異。
まさに日常のカタストロフィ。

キラキラ光る銀の前髪で顔を隠して項垂れ、ピクリとも動かなくなった。


「…アオ?」


「…」


「なんか…ゴメン」

< 49 / 291 >

この作品をシェア

pagetop