その嘘に踊れ
舐められた片目から涙を零しながら溜め息と共に呟いた透子は、唐突に、なんの前触れもなく、もちろんスイーツ(笑)シチュエーションもなしに、アオが着るシャツの前襟を掴んで引き寄せた。
そして、不意討ちを食らってされるがままのアオの唇に、まるでぶつかるように…
ぶつかるように…
…
「…
…
…
なんで…」
と、アオ。
「なんで、なんて、アオが考える必要ない。
このキスの意味も価値も、私が勝手に決める」
と、透子。
あー…
そう?
キスなンだ?
とめどなく事故の様相でしたケドも?
目すら閉じてませんでしたケドも?
前後の会話にだって、色気もムードも皆無でしたケドも?
『衝突』ではなく、『キス』と呼ぶモノだったンだ?
だが、たとえそんなんでも、アオにとっては…
驚天動地。
天変地異。
まさに日常のカタストロフィ。
キラキラ光る銀の前髪で顔を隠して項垂れ、ピクリとも動かなくなった。
「…アオ?」
「…」
「なんか…ゴメン」