その嘘に踊れ


彼女が食事をする所作は、とても美しい。

ピンと背筋を伸ばして、正座して。

マナー教室の手本のように正しく箸を持って。

その先だけを使って器用に卵焼きをつまみ、薄く開いた唇に…

唇に…

ジョバっ


「熱っ!?」


頬を染めて透子に見惚れていたアオは、胡座をかいた膝の上に、派手に味噌汁をブチ撒けた。


「…大丈夫?」


「ぁわわ、ごめーん。
タオル、タオル…
あー…
取りに行くから、一緒に来てくれる?」


「うん」


アオが動けば、透子も動く。
足錠で繋がっている二人の必然だ。

膝を床に着いたまま足の爪先を立てる、いわゆる跪座になってから、透子はスっと立ち上がる。

決して立て膝に手を着き、ヨイショ、なんてやったりしない。

それもまた、とても美しい。

その洗練された動きは、彼女が幼い頃に身に付けたモノではないだろうか。

母親が死んで。

名ばかりの父親にカタチだけ養われて。

ついでに要求されて覚えた『ごきげんよう』的教養とは思えないほど、板についている。

清楚で、奥ゆかしくて、驚くほど聡明で…

そんな彼女に相応しい、しなやかで美しい立ち居振る舞いだとアオは思う。

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