その嘘に踊れ

「でね?
コインロッカーの前で、子供が泣いてンだよ」


「うん、うん」


「女のヒトが『どうしたの?』って聞いても返事がなくて。
『お父さんは?』って聞いても返事がなくて」


「うん、うん」


「で、『お母さんは?』って聞いたら」


「『おまえだよぉぉぉぉぉ!!』」


「…
なんでソコ、しーちゃんが言っちゃうの?」




いやいや、その前に。

なんで怪談やってンの?

アオが胡座をかいて座って。
その膝に、透子を横抱きに乗っけて。
タオルケットに、二人でスッポリくるまって。

胸に寄り添う透子の頭を、アオがゆっくりと撫でて…

ハイ、ココまでは完璧デシタ。

それからナゼか…

『地震・雷・火事・おやじ』という恐怖対象ランキングに、どうしてオバケが入っていないのかなんて話になって。

学校でオバケに遭遇するとトイレに逃げ込みたくなる心理についての考察が始まって。

『ほっといてくれよ』と振り向いた人面犬の顔が嘉○達夫だった場合、どうすれば笑わずにすむのかを議論して。

ジワジワと近づいてくるリカちゃんの『おまえの後ろだぁ』は、やっぱり横取りされて…

うん、もはや怪談ですらないネ。

こんなんで千載一遇のチャンスを逃すとか…
アオくん、バカは『おまえだよぉぉぉぉぉ!!』

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