その嘘に踊れ
いや、ね?
本当にあった悪夢の夜以前から、そもそもヘタレなンスよ?
『キス』が『鱚』に変換された時点で、ヘタレ確定なのはわかってンスよ?
(あぁ、もぅ…
まさか自分が、こんな風になるとは…)
再び短く息をついたアオが、首を小さく左右に振った時…
「アーオー」
バスルームから、透子の声が聞こえた。
あれ?
もう出るの?
今さっき入ったばっかじゃね?
手についていた洗剤を水でサっと流して、アオは振り返る。
「どしたのー?」
「シャンプー切れてるー」
「あぁ、洗面台の棚に入ってなーい?」
「んー?
どの棚ー?」
ちょっと遠い会話を交わしながら、アオは大股でバスルームに近づいて…
その手前で、ピタリと足を止めた。
背中を変な汗が伝う。
口の中が一気に渇く。
心拍数が急上昇する。
(コレってもしかして…
ラッキースケベの前触れだったり…?)
洗面所兼脱衣所に繋がる扉についたドアノブを、アオは血走った眼で見つめた。