その嘘に踊れ
それから…
それから…
「ハイ」
「‥‥‥‥‥へ?」
アオは茫然と呟いた。
目の前に、揺れる鍵束。
その向こうには、当然のように鍵束を差し出す透子。
「へ?じゃないし。
足錠取らなきゃ、お風呂に行けないじゃない」
そう…
そうだね。
君の言う通りだね。
無言で鍵を受け取り、ノロノロと足錠を外すアオの顔を、身を屈めた透子が覗き込む。
「なんか…ますます眼球の水分含有量が」
「アハハ、そりゃ顔面殴られりゃ泣くわ。
さ、風呂入ろっと」
額に手を当てて笑ったアオは、そそくさと立ち上がって逃げるように寝室を出た。
そして後ろ手に閉めたドアに、力尽きたように背を預けてズルズルとしゃがみ込む。
キスの意味とか。
好きとか嫌いとか。
もうどーでもイイや。
だって君は俺から逃げない。
だって君は俺といてくれる。
鋭い君のことだから、俺がヘタレの上に泣き虫だって、きっと見抜いてしまっただろう。
ソレだって、もうどーでもイイや。
膝を抱えたアオは、透子の前でだけ素直に溢れる涙を、声を殺して流し続けた。