その嘘に踊れ

監禁


駅前の商業地域に立つ、なんの変哲もない量産型の賃貸マンション。

便利だが環境がいいとは言えず、周囲にはコンビニどころかパチンコ屋や居酒屋、カラオケ店などがあり、いつも明け方まで騒々しい。

だが、ソコが好都合。

騒音対策のために防音性が高い構造になっている上、大半の部屋が窓を閉めきっているのだ。

そんなマンションの、最上階角部屋の鍵を回す。

パっと見ソレも量産型だが、実はまだ一般には出回っていない特殊な鍵だ。

ピッキングやサムターン回しなんかじゃ、絶対に解錠できない。

とは言え、銃火器なんぞで攻撃されたら一発KOですケドね。

欲を言えば、玄関ドアも強化したかった。
なんだったら、マンション自体を要塞化したかった。

でも…


(あんまり表立ったコトもできないしなァ…)


溜め息を吐きながら不満でいっぱいの量産型玄関ドアを開け、GGDBのローカットスニーカーを脱いで1LDKの部屋に入ったのは…

あの、少女漫画から抜け出した系イケメンだ。

長い指でスイッチを押せば、日が落ちて暗くなっただだっ広いリビングに、明かりが灯る。

だだっ広いっつーか…

ナニもナイじゃん。

初期装備のエアコンとカーテン以外は、ナニもナイじゃん。

生活感がないとかいうレベルじゃねーよ。

なのにキッチンには真新しい大型冷蔵庫が置かれ、同じく真新しい調理器具が並んでいる。

きっとシンク下のスライド式収納棚には、真新しい食器もスタンバっているに違いない。

ナニ?
このアンバランス。

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