その嘘に踊れ

ジャージのポケットからモソモソとスマホを取り出したオタくんが、上目遣いで透子を見ながら訊ねる。


「顔はモザイク修正してありましたし…
髪型も違うし…
マンションの外観もココとは違うから、別人だと思いますケド…
面白そうなんで、『T.A発見』とかって燃料投下してもイイデスカ…?」


頬にかかる黒髪を揺らして小首を傾げた透子が、礼儀正しく答える


「いいンじゃないでしょうか。
面白そうですし」


いやいや、ダメだろ。
ナニ言ってンだ、コイツら。


「あらぁ、ダメよぉ!
万が一本当に透子ちゃん?だったわよね?のストーカーだったら、危ないじゃないの!」


太く男らしい眉を顰めたデイジーが、顔の前でヒラヒラと手を振って言った。

ついでにその手を口元に当て、『コワいわー』なんて身をくねらせる。

ビジュアル的には間違いだらけな気がしてしょうがないが、言ってるコトは大正解。

透子がこのマンションにいるのは、アオが誘拐したから。
透子の髪が市松人形風ボブになったのは、アオが切ったから。

『T.A』、『ごきげんよう』、そして『行方不明』になった時期も合わせて、そのストーカー被害女性が透子である可能性は高いのではないだろうか。

なのに、どこまでもノンキな当の本人は…


「それはあり得ないでしょう。
私に女性的な魅力を見出だして、ストーキングするほど酔狂な男性がいるとは思えません。
見ての通り私は、人目を引く要素なんて一つもない、平凡な女子高生ですから」


と、淡々とした口調で持論を披露した。

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