白い嘘
自分がこんなに蒼真のことを好きだったなんて、知らなかった。


私は、蒼真のことを忘れようとしたり。


でも、忘れられないことに気付いて。


何時までも、蒼真からの返事を待っている自分がいた。


それくらい、大切で。


大好きだった。


それは、小さい頃からずっと。


『帰ってきてよ…』


この前まで、そう泣いていた私。


でも


今は、ここにいるから。


大丈夫。


あの日々は寂しくて辛かったけど。


今はもう、一人じゃないから。


「じゃあね。」


さっき、強く擦り過ぎたのか目の周りが痛い。


私が手を振ると、蒼真は無言で同じように手を振ってきた。


家のカギを開ける。


カチャリ


やけに軽い音が鳴る。


玄関に入って、振りかえると蒼真がまだそこに立っててくれた。


トクン


前までなにも思わなかったことでさえ嬉しい。


もう一度だけと、手を振る。


「はやくはいりなよ。」


困ったように手を振る蒼真。


「…はーい。じゃあね。」


蒼真の笑顔がドアが閉まるのと同時に消えた。


バタン


「…ほんとに、ここに戻ってくるんだ。」


トクン


うれしい。


また、隣に蒼真がいるようになるんだ。


廊下の電気を付ける。


誰もいない家の中が、眩しく照らされた。


その明るさに目が眩む。


目を強く瞑る。


目、痛いな…


それと同時に


『美歩ってさー…』


ズキッ


何処からか、


何時かの言葉が、流れ込む。


何で………………?


思い出だしたくないのに。


せめて、今だけでいいから。


今日だけでいいから。


幸せでいたいよ。


私は、幸せになったらダメなの?


蒼真に振った手を強く握りしめる。


「やめてよ…」


頭の中をあの声たちがぐるぐると廻ってる。


「…蒼真、助けて。」

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