白い嘘
「俺、この前まで埼玉にいたんだ。大学が思ってたよりも忙しくってさ。大学の近くに住もうと思ってたからその手続きもあって…。」


土曜日、少しだけ涼しくなった今日。


蒼真の家にお邪魔して、送られてきた荷物の片付けを終えてひと休みをしてる。


思ったより蒼真の荷物は少なくて速く済んだ。


でも、まだ7個ほどの大きな段ボールが積み上げられている。


私が知っている蒼真の部屋とは大部欠け離れているけど、それでも久しぶりだった。


蒼真の部屋の懐かしい匂いがする。


ウーロン茶を飲みながら、蒼真の話に耳を傾ける。


「…もう、あっちには行かないけどね。……俺、大学止めたんだ。」


私を見て、笑う。


カランと氷がワラウ。


「え?」


なんで?


そう言う前に、蒼真が真剣な目をしたから言葉を呑み込んだ。


二人の間に沈黙が流れる。


……もしかして


嫌な音が頭を鳴らした。


それと同時に、陽だまりで暖まりながらこっちを見つめる咲子さんの姿が映った。


「やりたいこと、見付かったから。そのため。」


そんな私に気付いて、優しく笑う。


それがあまりにも咲子さんに似ていて。


「……あ、そうなんだ。頑張ってね。」


ほっと安心して、ため息が出る。


でも、心臓がチクリと痛かった。


何でかは分からないけど心臓が反応してる。


「…ありがとね。」


恥ずかしそうコップに目をやりながら、呟いた蒼真。


「え?」


私は、不思議に思って首を傾げる。


「…………待っててくれて、ありがとう。」


トクン


心臓が心地よい音を鳴らす。


蒼真の笑顔にまたドキドキしてる。


「…あと母さんのことも、心配してくれて…ありがとう。」


もう大丈夫だからと、笑う蒼真。

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