白い嘘
「鎖は心や身体を縛るものではなく、我々を痛みから救ってくれる非常に大切なものだ。」


まだ明るい空の下、私たちは並んで歩く。


私たちの手は強く握られて。


急に立ち止まって空を仰いだ蒼真。


同じように私も空を仰いだ。


その口から紡がれた言葉は綺麗で、光っていた。


空に舞っていく言葉たち。


雲の中に消えていく。


綺麗‥‥


私は、その横顔をただ見つめて、彼の次の言葉を待つ。


「憧れの先生の言葉。」


眩しそうに目を細める蒼真。


「……難しいね。分かんないな。」


「俺も。」


そう言って困ったように眉毛を下げる。


でも


風に消えてきそうな声。


「何時か、何時の日かくると思ってる。この言葉の意味が分かる時が。」


前を向いて力強く踏み出した彼の足。


ゆっくりだけど、確かに進みだしていて。


その一歩一歩が大きくて私は、追い付けない。


「そうだね。」


届かない声は風に消えた。


彼の背中にワラウ。

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