白い嘘
9歳の冬。


やけに寒い日だった。


私は、知らないおばさんに連れてこられたここ。


酷くその人は舞い上がってて、私を繋ぐ手を力強く握っていた。


手袋越しに伝わってくる、その人の緊張。


「今日からこの家があなたの場所よ。」


私の目を見ない。


私は、その人を見上げる。


真っ直ぐ前だけを見つめてた。


その視線を辿る。


大きな家。


大きな庭。


「…ここが?」


息が白い。


「そうよ。」


肌を突く寒さと一緒に、その人の声の冷たさが一層私を孤独にさせた。


「……」


知らない場所。


知らないおばさん。


知らない家。


知らない世界。


帰りたい


あそこに。


あの場所に。


お母さん……


何処で


何をしてるの?


寒いよ…


息が白く高く空に舞い上がっていく。

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