ノイジーマイノリティー
母はその言葉に
話をそらす
「お父さんも心配してるんだよ
ああいう人だし、男の人だから
口には出さないけどね」
リビングで
一人でビールを飲む
父を思い出す
父は
真面目な人だ
会社勤めをして
俺達家族を養ってきた
毎日同じ生活を何年も繰り返す
ただ俺には
ひどく退屈に見えたけども
日曜日の夕方
父は仕事の付き合いで
いない時があった
子供の頃
遊び相手のいない俺は
隣の家の庭に忍び込んだ
お隣に住む住人は
自宅でピアノの先生をしていた
元々人と関わるのが
好きな人みたいで
俺が行くと
ちゃんと相手をしてくれた
俺はそれが嬉しくて
退屈になると
隣の庭に忍び込んだ
芝生の庭の隅に
赤い屋根の小さな家が
ちょんと建っている
母屋に面した窓からは
午後はたいがい音楽が
流れてきた
俺はその音楽が好きだった
時々楽しそうな笑い声
俺にとっての幸せの風景
もちろん
父と母が嫌いな訳じゃない
あの世界に触れていたい
ただそれだけだ
「昔からお隣の家が
好きだったものねハルは」
母が不意にそう呟いた
適当に頷いていた俺は
その言葉に母を見つめた
目があうと
母は微笑んだ
以外だった
「ハル少し変わったかな
なんだか柔らかくなった
以前は父さんの話をするだけで
イライラしてて大変だったから」