ノイジーマイノリティー


初めてパームビーチに来てから



何度が店に来るうちに



愛果はずいぶん元気になった




毎月最後の土曜日




夜の営業時間の始まった頃




彼女は一人でやってきた



席に座る彼女は




いつもすごく嬉しそうだった



料理とワイン



それが彼女の注文だった



食べて飲んで



そして音楽を聴く




何よりその時間を楽しんでいた



パームビーチは



時間や日にちで



演奏のジャンルを決めていなかった



どちらかというと



お客がお目当ての演奏を



見る為に



来る時間を変えた



けれど彼女は



いつも大体同じ時間に来て




どんな音楽にも耳を傾けた




そんな彼女に



俺は昔の自分を見ていたんだと思う




その瞬間しかない出逢いと



食事とお酒を楽しむ




この空間をなにより楽しんでいた



声をかけたことはなかったが



演奏を見ながら



盗み見る彼女の表情からは



喜びが溢れていたから




その姿に俺は




俺の知ってる事



おしえてやりたくなったんだ



だから



あの河原での出逢いの時



俺は少し驚いたんだ



一緒に歩いた



土手の上の道



二人の間で交わされた会話が



あまりに自然で



そして



穏やかで



俺はまた



君と話したいと思ったんだよ



触れてしまったのは



君のその素直さと



優しさ



君の前では



余計なこと考えないでいいこと



ただ自分でいられることが



嬉しかった




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