中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
胸がチクリと一瞬痛んだのを感じて、私はすぐにあの呪文を唱えた。
真塩さんはホストだ。真塩さんはホストだ。真塩さんはホストだ。
だから、私は傷つかなくていい。傷つく理由がない。今日は真塩さんの情報を一切シャットダウンして、何も考えずに帰宅しよう。そう心に決めて、氷だらけのアイスティーを飲み干した。
* * *
そんな風に情報をシャットダウンしていたら、二週間ほど真塩さんと仕事以外の会話をしていないことに気づいた。
当たり前だけど、彼は会社ではとても真剣だし、仕事が早いし、後輩の誰にもひいきをしない。
真塩さんが私の首元で猫のように丸まっていたことなんて、もう幻のようにすら感じる。
「紫水、これ、納品完了のメールがまだ届いてないライターの一覧だって」
「あ、ありがとうございます! すぐに確認致します」
私と一切目を合わせずに資料を渡すエリートな彼は、ここ最近繁忙期ということもあって、忙殺されまくっているらしい。疲れでストレスが溜まっているせいか、轟さんとの口論も増えた。
白木さんとのことを全く聞けないまま、時間が経ってしまった。
「紫水、仕事最近早くなったね」
「轟さん、ありがとうございます。轟さんが過去に作ったガイドラインがすごく分かりやすいので、助かっています」
「あーあれ、良かった。そう言ってもらえて」
轟さんは、真塩さんと全く正反対の、顔の濃いダンディーな容姿だ。咥え煙草がよく似合うし、少し日に焼けた張りのある肌も、健康的で逞しい。短髪の黒髪がとても爽やかで、真塩さんに次いで人気があるのも頷ける。
「今度面談がてらランチへ行こう、ゲームの部署の話も一度聞いてみたかったんだ」
「本当ですか! ぜひご一緒させて下さい」
笑顔でそう返すと、遠くから真塩さんが轟さんを呼んだ。轟さんは軽く私に会釈をして、真塩さんの元へ向かった。
真塩さんの情報シャットダウン期間中の私は、すぐにパソコンに向き直り、仕事を再開した。