中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました


定時になり、社員がまばらに帰りだした。珍しく私も今日は早く仕事が終わり、残業をせずに帰れることになった。バッグに荷物を詰めてすぐに帰ろうとしたが、雨が降っていることに気づいた。

少し、近くのカフェで雨宿りをしてから帰ろうか。

そう思った私は、オフィスから歩いてすぐの地下鉄に入っているカフェに向かった。
カフェに置いてある雑誌を数冊とって、アイスティーと一緒にカウンター席に置いた。この部署に異動してから、かなり世の中の流行には敏感になったと思う。雑誌に載っている情報ではもうすでに遅いのだけれど、やはり情報の発信の仕方を学ぶにはとても良い。

アイスティーを飲みながら、パラパラと雑誌を読んでいると、隣の席に一人の男性が座った。かと思いきや、その人はカウンターにうつ伏せて全力で寝始めた。

薄いグリーンのシャツに、透けるとアッシュグレーになる綺麗な黒髪、逆三角形の美しい背中……どこをどうトリミングしても、真塩さんなんですけど……。

「あの、真塩さん……? 大丈夫ですか?」
「その声はまさか紫水奈々か」
「なぜフルネーム……そうです紫水です」

真塩さんはうつ伏せた状態で私の名前を呼んだ。
店内は薄暗いので、腕の隙間からわずかに見える顔だけでは、彼の表情をうまく確認できない。けれど、相当疲れ切っていることは聞かなくてもわかった。

おこがましくも、なんだか今すぐこの人の頭を撫でてあげたい衝動に駆られた。

「ここ、二十四時間営業だよな……?」
「いや、そうですけどまさかここで寝る気ですか……? 嘘ですよね」
「だってまだ仕事ある……大丈夫パンツならコンビニで買うし。じゃあおやすみまた明日」
「何言ってるんですかっ、こんなところじゃ体休まらないですよ!」

ぐっと肩を持つと、真塩さんの体が尋常じゃなく熱いことに気づいた。よく見たら瞳もうるんでいるし、顔も火照っている。そんな彼を見て、私は気づいたらカフェまでタクシーを呼んでいた。

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