中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
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真塩さんのマンションに来るのは本当に久しぶりだった。
細身の真塩さんだけど、さすがに男性をひとりで運ぶのは辛かった。
やっとのことでエレベーターまで連れ込んで、鍵を開けてベッドに寝かせることができた。
部屋は薄暗く、カーテンの隙間から月明かりだけが差し込んでいる。
部屋には彼のしんどそうな呼吸音だけが響いていて、それが妙にふたりきりということを意識させた。
キッチンをふと見やると、栄養ドリンクだけがずらっと並べられていた。
「真塩さん、ちゃんとしたもの食べないと、本当に体壊しますよ」
「……紫水、パソコン電源つけといて。今日中にやらなきゃいけない資料作成が」
真塩さんは、掠れた声でパソコンをつけることを指示した。
無理しないで、なんて言えない。だって私は彼女じゃないし、仕事の悩みを話せるような同期でもない。ただの仕事仲間だ。
……そうなんだけど、だけど、こんなにボロボロな人を放っておけるほど、薄情にはなれない。恋愛感情とか、そんなのは抜きにして、放っておくことなんかできない。
「明日必要な資料は、プレミアム会員数の推移と、キュレーションサイトの意義をどう化粧品会社にアプローチするか、というところですよね」
「そうだ、絶対この案件は外せない。明日KPコーポレーションとの大切な会議があって、そこで使う資料が必要なんだ」
「私、会社の売上情報とか、そういう単純なことならまとめられますし、キュレーションサイトについては今まさに担当しているところだから、大体の枠なら作れますよ」