中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました

「あいつ少し頑固な所があるからなー。自分が仕事できるから、分からないところが分からないみたいな所もあるから、ちゃんと質問しろよ」
「真塩さん、入社当初からエリートなんですか?」
「そうだな、最初から頭は切れてたよ。仕事脳過ぎて、あいつの彼女が気の毒に思うよ」
「え……」

彼女、という単語を聞いた瞬間、私はフォークを取り落としてしまった。がしゃん、という硬質な音が響き、轟さんは大丈夫か? と心配してくれた。

真塩さんに、彼女がいる……?

そんなこと、一言も聞いていないし、てっきりいないもんだと思っていた。彼に彼女がいるとしたら、あれは立派な浮気行為だ。嫌な汗が背中を伝い、真塩さんに対する疑心と嫌悪感が一気に膨らんでいった。

「まあ、今は付き合ってるかどうか知らないけどな。この前聞いた時は自然消滅したとか言ってたけど」
「自然消滅、ですか……」

自然消滅と言えど、ちゃんと切れていない限り、彼女がいることには変わりない。彼女がいるにも関わらず、どうして真塩さんはキスをしてきたの……?

……ああ、やっぱり、自惚れなくて正解だった。
彼にとって私は、薄れた愛の隙間を埋める都合のいい存在だったんだろうか。
気づいてよかった。本気で好きにならなくてよかった。泣くほど愛してしまわなくてよかった。傷つく前で、本当に、よかった。

「自然消滅なんてせずに、ちゃんと話し合って欲しいですね」

そう呟くと、轟さんは苦笑を漏らして、そうだな、と静かに頷いた。
私の心はなぜか落ち着いていて、一気に真塩さんという存在が遠くに行ってしまった。

「……紫水、肉好きか?」
少し暗い顔をしていると、轟さんが私の鉄板プレートを見つめながら問いかけた。
「お肉大好きです」
「お前最近頑張ってるから、いいとこ連れてってやるよ。金曜空けとけ」
「本当ですか! ありがとうございます」
真塩さんのことを考えないように、できるだけ色んな予定を詰めよう。彼のことを考えなくて済むくらい、仕事に打ち込もう。真塩さんに心を奪われかけていた私は、必死にそう言い聞かせて、ハンバーグの最後の一口を頬張った。
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