中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
* * *
「もう本当最悪っ、あんなに思わせぶりなこと言っておいて、彼女がいたなんて」
轟さんとのランチ後、化粧室のドアを開けると、白木さんの怒り声が鼓膜を震わせた。彼女は一瞬私をチラッと見て気まずそうな顔をしたが、声のボリュームを落として、構わず友人に話を続けた。
私は空気を読んでそそくさとトイレの個室に入った。
名前こそ出さないものの、彼女は真塩さんのことで怒っているということは明確だった。
「三回も飲みにいったのに部屋に入れてくれないから、理由問い詰めたら彼女がいるって……だったら最初から断れっての」
「えー何それ、信じられない! やっぱり彼女いたんだー……」
「彼女いても負けないつもりだったけど、結婚を考えてるんだ、とかマジな顔で言われちゃって……結婚考えてるのに他の女と飲むなよ! 結局体も求めてこないし、何がしたかったわけ?」
け、結婚を考えてる……?
自然消滅間近じゃないの?
頭の中に新しい情報が入り混じって、すでにショート寸前だ。
さっきはショックの方が大きかったけれど、段々と怒りが勝ってきた。
まだ本人に確認をしていないからどれが本当かは分からないけど、白木さんや私の気持ちを考えずに行動をしていることは確かだし、今後深く関わっていけばいくほど面倒臭いことになりそうだ。
突然だが、私は、面倒臭いことが大嫌いだ。
よくマイペースに見られがちだが、答えは白黒ハッキリさせたい主義だし、自然消滅なんてさせられた日にはたまったもんじゃない。どんなにいい答えも悪い答えも、早く知ってしまいたいのだ。
そんな性分の私が、真塩さんとのあんなにグレーな関係を、長く続けられるわけがない。
「……もうやめよう」
小さな声で呟いてから、私は水洗ボタンを押した。流れて行く水の音が、やけに耳について、離れなかった。
ドアを開けると、白木さんの目は少し赤かった。きっと、泣きながら怒っていたんだろう。
それくらい、本気で彼のことを好きだったんだろう。