中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
「あ、ありがとうございます、恐縮です……」
「取り乱し過ぎだろ」
「め、免疫が無かったもんで……やばい変な汗かいてきた……」
「そろそろ出るか、飲み過ぎだよ、お前」
ふっと、本当に自然に、私の頬を手の甲で撫でてから、轟さんが立ち上がった。
一瞬のことだったけれど、熱くなった頬に触れた手の甲はとても冷たく感じて、驚いてしばらく動けなくなってしまった。
呆然としているうちに轟さんは会計を済ませ、早く出るぞ、と言ってから私を置いて店を出た。
……真夏の夜の空気は、生温くてあまり好きじゃない。
轟さんは私の五歩先を歩いて、駅を目指して行く。
新宿から少し外れたこの駅に降りたのは初めてで、ジビエ料理店に行ったのも初めてで、こんなに長く轟さんと二人きりになったのも初めてだった。
不思議な気持ちで彼の広い背中をぼんやり見つめながら歩いていると、突然彼が立ち止まった。
「轟さん、どうしたんですか」
問いかけると、彼は口元に人差し指を当てて、入り込んだ路地の方面に目配せをした。
その方向へ目をやると、そこには細身のスーツを着た真塩さんと、広告部の男の先輩が数人いた。
「へー、意外。真塩もガールズバーとか行くんだ」
「え、あそこガールズバーなんですか」
「俺もあそこ行ったことある。結構可愛い子多いんだよなー」
そ、そうなんですか……轟さんも行ったことあるんですね。