中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
好きなんだ、本当に
人の体温が無理だ。
人の匂いが無理だ。
人の肌が無理だ。
俺の潔癖が加速したのは、情けないことに、元カノの浮気現場を見てしまってからだ。
大学時代、男とルームシェアをしていた俺は、よく彼女をその家に招いていた。
彼女とルームメイトも仲良くなっていたし、よく三人で遊びに行ったりもした。
しかしある日、バイトのシフトが急遽削られて家に戻ってみると、俺のベッドの上で俺の彼女とルームメイトが裸で抱き合っていた。
俺がいない間に一度家で会ったことをきっかけに、そういう関係になっていったらしい。
あの時のことは、今はよく覚えていないが、後遺症は大きかった。
ベッドやソファーはその日に捨てたし、最終的に家も引っ越した。彼女とした全ての行為が汚らわしく思えて、彼女のことを思い出しては何度も何度も手を洗う癖がついた。
それから潔癖症は加速し、汚れだけでなく、人の肌や体温やにおいまでもが苦手になった。
あの時のことがフラッシュバックして、女を見るたびに吐き気がすることもあった。
……今はそこまでではないけれど、あれ以来まともに女性と付き合えていない。
それどころか、人をちゃんと好きになるという感情すら、ここ最近抱いていない。
だから、あんな風に誰かの為に怒ったりすることも久しく、どうしてあそこまで腹が立ったのか、自分でも驚きであった。
「お前、今彼女いんの?」
窓際の休憩室で缶コーヒーを飲んでいると、轟さんがやってきた。
俺は目を丸くしながら、缶コーヒーを口から離して答えた。
「いないですよ」
「……自然消滅がどうのとか言ってた彼女は?」
自然消滅か……。最早あれは付き合っていたのかもよく分からない、という恋愛を、ここ三年で何回もした。ちゃんと別れなよ、ということを何度も周りに注意されたが、別れ話に使うエネルギーを想像すると、億劫で放置してしまことが多々あった。今回もそれと同じで、俺はつくづく最低な人間だと思う。