中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました

* * *

『今日は仕事が遅くなるのですが、大丈夫でしょうか』。

紫水から返ってきたメッセージは、その一言だった。
俺はそのメッセージに対して、『四階の休憩室で待ってる』と返した。
四階は派遣やアルバイトが多くいる部署で、十九時には殆ど人がいなくなるし、出入りも少ない。
そこで待ち合わせて移動してもいいし、そこで話してもどっちでもいい。

紫水より仕事が早く終わった俺は、先に四階に移動して、明日の仕事の確認をしていた。人が来ないように、念のため電気は最小限まで消して、休憩室にある間接照明のオレンジ色の光だけが辺りを照らしている。

思い起こせば、最初紫水と契約を交わしたのもこの場所だった。
あの時俺が巻き込まなければ、紫水に苦しい思いをさせなくて済んだのだろう。

『紫水は男に免疫をつける為に、俺は癒しをもらう為に、定期的に二人で会わないか』。

誘ったのも、話しかけたのも、襲ったのも俺からだった。紫水が抵抗しないのをいいことに、何も気にせずに人の肌に触れられることが嬉しくて、紫水を求めてしまった。

紫水は、俺と会った後、どんな表情をしていたんだろう。

「真塩さん、入ります」
コンコン、という軽やかなノックオン音と共に、紫水が休憩室に入ってきた。
「……お疲れ様」
「すみません、お待たせして……」
「ここ座れよ」
俺は、モスグリーンのソファーを叩いて、すぐ隣に座るように指示した。
紫水と二人きりになるのは久しぶりで、俺は変に緊張してしまった。
何からどう伝えようか。いきなり謝るのもおかしいし。いや、でも、先日の横谷の件で取り乱したことについても謝罪したい……。話すべきことがありすぎて、逆に言葉に詰まってしまった。

「……仕事、どうだ、最近」
違う、今はそんなつまらないことを話したいわけじゃない。
「あ、今は轟さんと一緒に、シミュレーション型の新機能を開発していて、ゲームディレクターの頃を思い出して楽しいです」
紫水はどこか話し方が落ち着いていて上品で、綺麗だ。それは出会った当初から感じていた。
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