中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました

紫水が気まずそうに髪に触れた。……その、なんの癖も無いサラサラの髪の毛が、清潔感があって好きだ。その髪に触れて顔を埋めたい欲に駆られるほど、紫水の匂いが好きだ。これを好きという気持ちに捉えていいのか、俺はまだ、心の中で葛藤していた。

「……この前は、取り乱してごめん」
絞り出したように謝ると、紫水は顔をこちらに向けた。
「いえ、こちらこそ、巻き込んでしまいすみません……あの」
紫水が少し言葉を濁したので、俺は黙って彼女の言葉を待った。
「実は横谷さん、私の元彼で、色々と気まずかったので、助かりました」
「えっ、じゃああいつが」
セックスが原因で別れた彼氏なのか? と言おうとしたが、あまりに露骨だったのでその先は言えなかった。しかし、紫水は静かに首を縦に振った。
「……あの時、やっぱり何か言われたんだな」
「いえ、少し昔のことを言われただけで……」
紫水が無理矢理笑っていることに気づいて、俺は思わず彼女の頭を撫でてしまった。
「気にしなくていいから、何も」
安心させるように言うと、途端に紫水は表情を崩して、困ったように眉を下げ、俺の手を静かに払った。

「ま、真塩さんは、どうしてそうやって、優しくするんですか……」
「紫水……?」

そのあまりにも苦しそうな表情を見て、俺は動揺してしまった。

「わ、私のことを、一体どうしたいんですか……どうしてただの後輩のままでいさせてくれないんですか」
「……紫水、俺はお前が本当に心配で、可愛くて」
「それは愛じゃないです。手元に置いておきたい程度の、可愛がり方なんて、残酷なだけです」
俺が言葉を返せば返すほど、紫水の表情は泣きそうになって行く。その切ない顔が妙に色っぽくて、俺は不謹慎にもドキドキしてしまった。

「わ、私はペットじゃないんですよ……っ、ただ可愛がられるという関係性だけで、何が生まれるって言うんですか、勘違いしそうになるじゃないですか」
「紫水、こっち見ろって、表情見ないとちゃんと話せない」
頬に手を添えたら、彼女が泣いていることに気づいた。
彼女の潤んだ瞳が、俺の心をぎゅっと鷲掴みにした。
< 49 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop