中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました

――もう我慢できなくて、彼女の涙を指で拭ってから、深い深いキスをした。
紫水は抵抗して、俺の胸を強く押し返す。
「んっ、真塩さん、やめ……」
「……俺も怖いよ」
唇を離し、額はくっつけたまま、至近距離で低い声で呟く。
「ま、真塩さん……?」
どうしてこの気持ちがグレーだと思っていたんだろう。
俺は、初めてエレベーターで会ったあの時も、
俺の仕事を震えながら手伝ってくれたあの時も、
轟さんと食事をしたと知ったあの時も、
恋愛に対して脅えて震えている今も、
紫水のことでこんなに頭がいっぱいになって、自分の行動が制限できなくなっているのに。
こんなに自分が見えなくなるなんてこと、今までなかった。

「紫水のことが好きだから、どうしていいか分からなくて、怖い……初めてだ、こんなのは……」
そう言うと、紫水は驚き目を丸くしていた。こんなに自信のなさそうな俺を見て、幻滅しただろうか。でも、構わない。もう逃げない。俺は今、紫水との関係性をはっきりさせたい。

「こんなに苦しい思いをさせてたんだな……ごめんな紫水……っ、俺、紫水が好きだよ」
「う、嘘ですよね……そんなこと、だって」
「嘘じゃないよ、好きだよ。……好きなんだ」

――轟さんの言う通り、バカみたいに分かりやすい愛の伝え方をした。もう俺にはその手段しかなかったからだ。それほど今の俺には余裕がなかったのだ。

紫水は、さっき以上に瞳を潤ませて、俺のことを見つめている。紫水は、相変わらず人を煽ることが上手いと思う。

「……好きになってよ、俺のこと」
紫水の髪を耳にかけて囁くと、彼女は気まずそうに視線を床に落とした。
「なってますよ、正直もう好きになってましたよ、あんな風に私のために怒ってくれたりしたら、とどめ刺されたに決まってるじゃないですかっ……」
紫水は手と声を震わせながら、必死に自分の想いを伝えようとしている。
「でも、急すぎてよく分からないです、どうして真塩さんはそうやって、いつも予想外のことをしてくるんですか……っ」
「……まだ俺が怖い?」
問いかけると、彼女は震えた声で答えた。
「こ、怖いのは真塩さんじゃなくて……」
「俺、彼女にはだいぶ優しいよ、意外とマメだし」
「そ、それ普通自分で言いますか……」
紫水は呆れたような表情をして、やっと顔を上げてくれた。
「セックスもきっと相性悪くないと思う。どっかのクズエンジニアと違って」
「あの人引き合いに出しますか、今……」
「誕生日は紫水のわがままなんでも聞くし、サプライズだって用意するよ」
そう言うと、彼女は目を少しだけ輝かせた。
「なんでも……?」
「そう、なんでもだ。俺、彼女はお姫様だと思ってるタイプだから」
「ふ、なんですか、それっ……」
久々に紫水の笑顔を見て、思わずきゅんとしてしまった。
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