今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる
『………絵、鈴ちゃんの絵を描きましょう』
清二さんもきっと雪ちゃんが呑みこんだ言葉を分かってる。
けれど彼は知らない振りをした。
『………そうだね』
『雪ちゃんと鈴ちゃん、二人はよく似てるから、雪ちゃんがモデルになってください』
『……あ、うん……』
二人は近くに腰かけ、清二さんは鞄から取り出した鉛筆を紙の上に滑らせていく。
二人の会話もなく、ただ雪ちゃんが清二さんを見つめ、清二さんが雪ちゃんを見つめる、そんな時間が流れていく。
そんな時間がどれだけ流れていっただろう……
雪ちゃんの目が段々と閉じていく。
清二さんはそんな雪ちゃんの様子を見て、そっと雪ちゃんの隣に移動する。
『雪ちゃん、少し休んだら?』
『……でも』
清二さんは雪ちゃんの言葉を遮る。
遮るのは言葉ではなく、雪ちゃんの肩に手を置き、そっと自分の方へと体を向けさせながら。
『………せいちゃん?』
雪ちゃんの声が耳元で聞こえる。
“この温もりを感じることが出来る、僕にはあとどのくらいそれが許されているんだろうか”
ふと聞こえてきた、清二さんの心の声ー……
“志願書を提出すれば、僕はすぐにでもどこかの部隊に入隊することになる。
そうしたら、こんな風に雪ちゃんと言葉を交わすことも、雪ちゃんの温もりを感じることも出来なくなる。
それなら、限られた時間の中で雪ちゃんと言葉を交わそう、雪ちゃんの温もりを忘れられない位に感じておこう”
『…………もし僕がいなくなっても、雪ちゃんは強いから泣かないでください……』
すぐ近くで聞こえる、雪ちゃんの寝息。
それを聞きながら、呟く清二さんー……
好きな人を残して、戦地に赴く兵隊ー……
“お国のため”と、“天皇陛下のため”と、彼らはその強い確固たる信念のもとに戦地に赴いたのだと思った。
けれど、本当はその小さい体で、何度も何度も悩んで、何度も何度もここにいたいと望む想いがあったのだと、俺は感じた。