今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる








『………絵、鈴ちゃんの絵を描きましょう』





清二さんもきっと雪ちゃんが呑みこんだ言葉を分かってる。



けれど彼は知らない振りをした。









『………そうだね』







『雪ちゃんと鈴ちゃん、二人はよく似てるから、雪ちゃんがモデルになってください』






『……あ、うん……』





二人は近くに腰かけ、清二さんは鞄から取り出した鉛筆を紙の上に滑らせていく。






二人の会話もなく、ただ雪ちゃんが清二さんを見つめ、清二さんが雪ちゃんを見つめる、そんな時間が流れていく。




そんな時間がどれだけ流れていっただろう……





雪ちゃんの目が段々と閉じていく。



清二さんはそんな雪ちゃんの様子を見て、そっと雪ちゃんの隣に移動する。










『雪ちゃん、少し休んだら?』








『……でも』








清二さんは雪ちゃんの言葉を遮る。




遮るのは言葉ではなく、雪ちゃんの肩に手を置き、そっと自分の方へと体を向けさせながら。











『………せいちゃん?』





雪ちゃんの声が耳元で聞こえる。








“この温もりを感じることが出来る、僕にはあとどのくらいそれが許されているんだろうか”




ふと聞こえてきた、清二さんの心の声ー……






“志願書を提出すれば、僕はすぐにでもどこかの部隊に入隊することになる。
 そうしたら、こんな風に雪ちゃんと言葉を交わすことも、雪ちゃんの温もりを感じることも出来なくなる。

 それなら、限られた時間の中で雪ちゃんと言葉を交わそう、雪ちゃんの温もりを忘れられない位に感じておこう”











『…………もし僕がいなくなっても、雪ちゃんは強いから泣かないでください……』






すぐ近くで聞こえる、雪ちゃんの寝息。


それを聞きながら、呟く清二さんー……







好きな人を残して、戦地に赴く兵隊ー……



“お国のため”と、“天皇陛下のため”と、彼らはその強い確固たる信念のもとに戦地に赴いたのだと思った。





けれど、本当はその小さい体で、何度も何度も悩んで、何度も何度もここにいたいと望む想いがあったのだと、俺は感じた。











< 121 / 150 >

この作品をシェア

pagetop