今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる
そして、私は理解した。
私が見て、聞いて、感じているこの光景は、全て雪さんの記憶だと。
何故雪さんが私に自分の記憶を見せているのかは分からないー……
けれど、これは全部、雪さんの体験した記憶なんだ。
『では、約束しましょう。
僕は、必ず雪ちゃんの元に帰ります。
だから、雪ちゃんは絶対に生き延びてください。
これは僕からのお願いであり、そして約束です』
私が一人、納得しているうちに鷲尾さんは雪さんにそう伝える。
雪さんはその約束を受け入れ、“お約束します”と答えていた。
ひとしきり、二人は微笑みあった後、鷲尾さんは敬礼をし、そして背中を向けて再び歩き始めた。
『……せいちゃん……』
そんな鷲尾さんを雪さんは呼びかける。
鷲尾さんは振り返りはしなかったけど、その場で足を止めた。
『…………いってらっしゃい……せいちゃん……』
雪さんが絞り出したかのような声でそう言うと、鷲尾さんは振り向くこともなく、ただ手をヒラヒラとさせながら歩き出した。
何故、鷲尾さんが振りかえらなかったのか。
何故、雪さんはこれ以上何も言わなかったのか。
何故、雪さんはこれ以上追いかけなかったのか。
私には理解できなかったけれど、戦地に赴く人は残される人のことをよく考えていて、見送る人も戦地に赴く人のことをよく考えていることは伝わってきた。
どっちも悲しいし、どっちもやるせない思いがある、けれどこうやって別れをするのか……、そう思った。
雪さんは鷲尾さんの背中が見えなくなった後も、しばらくの間、そのまま同じ場所に立っていた。