今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる
『忘れもしない、あれは4月5日のこと。
戦艦大和に海上特攻隊としての出撃命令が下されたんだ。
鷲尾さん達乗組員がそれを正式に知ったのは、午後3時のこと。
それからは慌ただしかった、ある者たちは可燃物を全て海に捨て去り、またある者たちは倉庫としてしようしていた部屋を戦死した者の遺体安置所にした。
25ミリ3連装機銃の弾も用意された、船に乗る全ての者が慌ただしく準備をしていたよ』
結城君の淡々と語る、その言葉達。
けれど、私にもその光景が見えてくるようだった。
横を歩く結城君のスピードが段々に落ちていく。
『“総員死二方用意”と書かれた黒板が砲塔に掲げられて、鷲尾さん達はざわめいているようだった。
俺も難しいことは分からない、けど文字を見た時に“死ぬ準備をしろ”ってことなのかなって思って。
多くの兵隊が故郷の方に体を向けて、家族の名前を叫んでいた。
まるでそれが最後の“別れの挨拶”のようで、あちこちから聞こえる叫びに、あちこちから聞こえる嗚咽に俺は心が痛くてさ。
だってさ……一目会うことさえなく“さようなら”だぜ?
俺だったら……例えここが海の上だとしても、それでも本当に大事な奴には顔を合わせて言いたい、けど…あの人たちにはそれをしている時間もなくてさ……』
そして、結城君の足は止まった。
『7日の昼過ぎ、見張り役だった奴の声が響いたんだ。
“大編隊発見”って……言われた通り、空を見上げるとゴマ粒のような黒い物体が沢山あって……裕に100は超えていたよ。
鷲尾さんは25ミリ3連装機銃の弾の入れ替えをする役割だった。
狙い撃ちなんてする余裕なんてない、米軍の攻撃に3連装機銃の射手がやられて………その人の叫び声と共に真っ赤な液体が飛び散ってきた。
すぐに血だと分かった、けどその人は足だけを残して、胴体から上の部分は吹き飛ばされてた………』