今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる
『その後、誰かが「ハチマキを作りましょう」と提案してきたの。
特攻する人はね、ハチマキに日の丸を描いたものをおでこに巻いて征かれると聞いて、そのハチマキを作りましょうって。
当時の日本は物資がなくてね……私は母の形見でもあった着物の裏地を切り、白い部分を縫い合わせハチマキを作った。
そして最後に日の丸を……そう思った時、私は自分の小指に包丁で傷をつけて、そこから垂れる血で日の丸を描いたの。
“この痛みと引き換えに、彼が無事に戻ってこられますように”そう願った。
あり得ないのよ?一度、出撃の命令がくだされれば彼はどの道、死が約束されている。
まともに突っ込めば敵艦もろとも散る、もし何らかの故障が起きていても暗い海の中、彼らは逃げ出すことさえ出来ず、沈んだまま………。
それでも願いたかった……声に出して言えないから……あの人の無事を願うことしか許されなかったから』
『………ハチマキは………渡せたの…?』
そんな想いを込めたハチマキ……
お婆ちゃんは渡すことができたんだろうか……
『……次の日、指導員の方に「この日の丸を、私たちが調整した縦舵機を操縦して出撃する搭乗員に渡してください」そう渡そうとした時、ふと窓を見るとその人がこちらに歩いてくるのが見えてね……。
私は咄嗟に自分の血で染めたハチマキを彼がいる、工場の下に落としたの。
ヒラヒラと舞う、そのハチマキを彼は拾い上げてくれてね。
彼はすぐさま、そのハチマキを握りしめて、私がいる方へと顔を向けてくれたわ。
「どうもありがとう。僕はこれを巻いて、出撃します。必ず期待に添える攻撃をしてきます」そう言って敬礼をしてくれた。
本当の気持ちなんて何一つ言えず、それでも彼はただ、ただ……優しい笑顔を見せてくれてね…何も言えない私に、彼は私の名前を問いかけてくれたの』
『………名前を?』