今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる









『私が「細田鈴と申します」と控えめに答えると、彼は「僕は竹内幸太郎と申します。鈴さん、願っていて下さい、僕の突撃が成功するようにと。あなたの願いと祈りを僕は胸に出撃します。本当にありがとう」そう言って、私に背を向けて歩いてってしまったの』







“願っていて下さい、僕の突撃は成功するようにと”





どうして竹内さんはそんなことを言えたの………?





だって成功したら……敵艦もろとも木っ端微塵になっちゃうんだよ……?






どうして?



どうして?



どうして?








どうして竹内さんも、鷲尾さんも………



どうして死ぬことが前提になっていても、そうして行けるの?













『彼は二度と、二度と、工場に顔を出すことはなかった。

 あの日に見送った、あの背中が彼との最後……。


 そして彼が姿を見せなくなった、その9ヶ月後に日本は終戦を迎えたの。

 もし……日本がもう少し、早くに戦争を終わらせていたら……あるいは彼の出撃が遅ければ………そうしたら彼は回天に乗らずに生きていられたかもしれない……そう、そう思うとね……』













『だから、終戦を告げる玉音放送が流れた時、私は決意したの。

 彼の姿が見えなくなったあの日から待ち続けている彼、その彼以外に心を揺らさない、そう決めたの』










『………竹内さんが好き……だったから…?』









『好きだったよ、大好きだったよ。

 でも……私が彼を忘れない限り、彼は私の中で鮮明に生き続ける。

 彼を忘れたくない、耳に残る彼の声を、目に焼きついたあの笑顔を、私は決して忘れたくなかった。


 だから、私は彼を忘れないと、生涯、私は彼以外を好きにならないと、そう決めたの』











たった三回……




交わした言葉も十分じゃない……





それでもお婆ちゃんは、“竹内さん”だけと決めた。







この時のお婆ちゃんの苦しみは、どれほどのものだっただろう……













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