今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる






『これが……幸太郎さんが私に宛てた“手紙”』





お婆ちゃんは仏壇の下の引きだしから、一枚の紙を取り出し、私に差し出してくれた。









『………私が読んでもいいの?』





『……小雪ちゃんに読んでほしいの』





お婆ちゃんはそう言うとニッコリと微笑んだ。



私はお婆ちゃんのその微笑みに意を決して、竹内さんがお婆ちゃんに宛てた手紙に目をやる。














細田 様




私は今、南の海に向かって出撃を待っているところです。



細田様はあの軍需工場にて御勤めをされているところでしょうか。



いえ、もしかしたらこの手紙を読まれている頃には戦争は終わっているかもしれません。



いよいよ日本の戦局も厳しく、日本の勝利を願うことさえも難しい今日です。



私は意気地のない日本男児、特攻隊に志願しておきながら、私の“死”が何にお役に立つと言うのか、そればかりを考えては“生きる”ことを諦めたくない、そんな日々でした。



そんな時、あの軍需工場で細田様が懸命にお勤めされているのを見掛けて、私は驚かされました。



まだ女学生のあなたがお国の為と、日本の勝利を信じ、懸命にお勤めされる姿を見て、こんな風に諦めていない人がいるのならば、私たちが諦めてはいけないと。



この回天は「天を回らし、戦局を逆転させる」という願いが込められた特攻兵器、私がこれに乗り、そして敵艦に体当たりすることができたのなら、きっとあなたの御勤めが浮かばれますでしょう。



それならば、私はこの「回天」で、日本男児として美しく散るばかり。



けれど、出来ることなら、あなたともう少しお話してみたかった。


出来ることなら、あなたの声で名を呼んで頂きたかった。



もし、あなたの御勤めが浮かばれるようになりましたら、どうか「竹内幸太郎、よくやった」とお褒めください。



そして、どうかこの遺書をお捨てになってください。

どうか、私の名も忘れてくださいますよう、お願い致します。




では、残る日本国民よ、国を宜しくお願い致します。






竹内 幸太郎







< 95 / 150 >

この作品をシェア

pagetop