今度こそ、ずっと、あなたの隣にいる
『でも、朔太郎さんは何度も何度も私を訪ねてきてくれたの。
何度私が怪訝な顔をしても、何度私が冷たい態度を取っても。
そんな日々が五年も続いた、ある日、朔太郎さんの家に誘われたことがあって。
「兄に線香をあげてやって」と言われるがまま、私はお線香をあげさせてもらったわ。
遺影として飾られた幸太郎さんの顔はとても凛々しくて、あの日に見ていた顔となんら変わらなかった……
そんなことを思って遺影を見ていたら、朔太郎さんがなかなか部屋に戻ってこなくてね……
台所へ足を運んだ時、朔太郎さんが椅子に腰かけて、声もださずに泣いていたの……』
『………お爺ちゃんが?』
『そう。たった一人で肩を震わせながら。
私は声をかけることができず、ただその姿を見ていたら、朔太郎さんがポツリ…話し始めたの。
「なんで兄さんが死んでしまったんだよ。兄さんは生きて、あの人の元に帰らなきゃいけなかったんだ。僕が生き残るのではなく、兄さんが生きていれば……あの人は幸せに笑えたんだ」そう言って、涙を流す姿を見ていて。
この人は“お国の為”と我が身も己の心も全てを捧げてきた人、戦争が終わって、もう何も捧げなくてもいいのに、自分を責めて、何度もこうして涙を流してきたのだと、その時私は知ったの。
だから、もうこの人を責めさせるようなことをしてはいけない、もう幸太郎さんがいないこと、朔太郎さんが生きている事実を受け入れようと思ったの』