ボロスとピヨのてんわやな日常
 目の前にいると思ったピヨはいなくて。いたのは黄色い体に茶色の縞模様の鳥。そして、鳴き声は「グワッ」。
 俺の目がどうかしてしまったのではないかと思い、両手で目を擦る。そして、ゆっくりと瞼を開ける。しかし、目の前の状況に変化はない。
 ――えっと、これってまさか、進化とかいうやつでは? ということは、更にピヨはチート設定になったわけ?
 と、思ったら、その鳥の後ろからピヨがひょっこり姿を見せた。
「ピヨピヨピヨッピ」
 何やらピヨがジェスチャー付きで俺に話しかけるが、俺がピヨ語をわからないというのは、読者さまも知っている通りである。
「ピヨッピピッピヨピヨ」
「グワッグワワッグワッ」
 すると、困惑する俺を無視して、ピヨと縞模様の鳥が向かい合って鳴きはじめた。
 えっ、これ会話か? 会話なのか? 全く理解できないのだけど。
「ピヨッピッピヨヨ」
「グワワッグワッ」
 更にピヨが話しかけると、縞模様の鳥が首肯した。そして、ピヨが振り返りざま俺を見ると、どや顔で指を立てる。
 いやいや、話を聞いてやったぜって、顔をされても俺には鳥語がわからないのですが。お願い、鳥語から猫語に翻訳できる動物さんきて!
 と、叫んでもくるはずがなく。取り敢えず、この「グワッ」と鳴く鳥は成鳥ではないようなので、親がいないか周りを見る。更によく見ると、こいつカルガモの子供なんじゃないだろうかと気づいた。
「親の姿が見えないんだけど……お前、もしかして迷子なのか?」
 そう訊くと、そいつはピヨと顔を見合わせて、「やれやれ、ようやくわかったのか」という仕草をした。
「開き直るんじゃねえ! ああ、どうすんだよ。ただでさえ、ピヨで手一杯なのに、子ガモの面倒も見る展開に突入か……」
 カルガモは群生の習性がある。子ガモが親離れするのははやいが、こいつはどうみても生まれたばかり。親元に返したほうがいいはずだ。しかし、果たして親は、はぐれたこいつをまた子供として認識するのかどうか。
「いや、待てよ。鴨も味は良いと聞いたことがあるぞ。これは食すという展開もあり――」
 と思って見たら、ピヨが俺をじっと見つめている。
 やばっ、つい本音を口にしてしまった。って、なんで俺、ピヨに建前遣っているんだ?
 すると、ピヨは俺から目を逸らし、子ガモのほうに体を向けた。
「ピヨッピピピヨ」
「おい、待てい。告げ愚痴はよせって! わかった、わかった。俺がなんとかすりゃいいんだろ。今日は釣果があったから気分がいいんだ。だから今回は特別に、この俺さまが面倒をみてやろう。俺は、いつもはこんなことをしない、強気の猫さんなんだからな。そこ大事なところだから覚えておくように」
 説明すると、二匹は同時に首を縦に振る。よし、なかなか物分かりがいいじゃないか。
 とはいえ、親を見つけるあてもアイデアもひらめかず。猫は鳥の天敵だし、親ガモの姿を見て近づいたとしても逃げられるか、あるいは攻撃をされるかだ。そして、言葉も通じないという最悪な条件が山積みなのである。
「とはいえ、名前がないと不便だな。鳴き声をとって、そのままグワでいいか」
 子ガモは、すこし悩んだ様子を見せた後、「グワッ」と鳴いて首を縦に振る。
 いろいろと自分の名前を考えたのだろうけど、しっくりいくものが思いつかなかったんだろうな。
「よし、まずはグワ。お前がどこからここにきたのかできる限り思い出すんだ。親が遠くまで移動していなければ、きっとその道筋のどこかにいる」
 グワは川のほうに視線を向けると、上流のほうを指し示した。
 なるほど、川の流れに負けて流され、そのまま親とはぐれてしまったという訳か。とはいえ、俺は猫だ。子ガモと一生に川を泳いで上流へという真似はできない。子ガモの行動範囲はそんなに広くもないだろう。それなので歩いて上流に向かうことにする。すると、ピヨがたくさん釣った魚を見て「ピヨ」と鳴いた。
「そうか……せっかく釣ったのに置いて遠くにいくわけにもいかないよな。ああっ、そうだ。いいこと思いついたぞ! ピヨ、ちょっと耳貸せ」
 数日では食べきれないほどある魚。そして、俺は鳥語を話せないし理解できないがピヨは話せる。子ガモの行動範囲は狭い。これを総合して大衆心理を利用する。
「言え、ピヨ。お前の声がどこまで届くのかにかかっているぞ!」
「ピヨッピー! ピヨピピピヨー!」
 俺の指示と同時に、ピヨの声が辺りに響き渡っていた。
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