ボロスとピヨのてんわやな日常
ピヨの声が辺りに響き渡るとともに、賑やかな鳥の声が聞こえはじめる。そして、あっという間に辺りはカルガモだらけになっていた。
いくら鳥の天敵とはいえ、さすがに俺もこれだけのカルガモに見つめられると尻込みしてしまう。グワはというと、集まったカルガモを見て必死に親を捜していた。
そう、俺はピヨにこう頼んだのである。
『カルガモの皆さん。たくさんの魚をご用意しましたので、迷子の子ガモの親を見つける協力をしてください』そう叫べと。
タダで食べ物を貰えるというのであれば、誰だって興味を示して寄ってくる。しかも、ただ「食べてください」というのではなく、理由を提示しての客引き。
何も裏を感じさせない宣伝であり、しかも呼ぶ相手も「カルガモの皆さん」と限定している。そのため、同種しかこないという安心感も与えているのだ。
これこそ、このボロスさまの本領発揮、真骨頂である。
「ピヨッピッピヨッピピッピ」
ピヨが話している内容は、「この子ガモに見覚えはないですか? お母さんはいませんか」である。カルガモたちは大量に積みあがった魚を見て、魚を貰えることに嘘はないと確信したのか、その場で「グワッ」「グワワッ」と話しはじめた。
しかし、俺には鳥語はわからない。これ、流れ的に良いのか、悪いのか? 不安になって、ピヨを見る。ピヨはというと真剣な表情だ。とはいえ、こいつの瞳からは感情がつかみにくいんだけど。
けどまあ、たくさん集まったものだな。この作戦がいつも使えたら、俺も鳥肉には困らないのだろうけど。と、今度は本音を表に出さないように妄想する。
「グワッグワワッグワッ」
そこで、グワが突然、大きな声で鳴きはじめた。その視線の先にはカルガモの親子がいる。親もグワに気づいたのか声を出し、グワの兄弟とも思える子ガモも一斉に鳴きはじめた。そして、互いに駆け寄り、羽根をばたつかせ、喜びを動きで表現する。
たくさんの兄弟たちに囲まれ、俺にはどれがグワなのかわからなくなってしまった。
気になってピヨを見ると、カルガモの親子をじっと見つめている。カルガモ親子の再会を喜んでいるのか、それとももっと長く友達でいたかったのか。あるいは――。
「グワッ」
錯綜する想いに浸っていたため、グワが戻ってきたのに気づかなかった。そして、深く頭を下げる。これは、お礼ということだろうか。
「もう親とはぐれんじゃないぞ。俺さまが、たまたま器がでかい猫だったから食べられなかったんだからな。もっと怖い猫に会っていたら頭から食われるところだったぞ。だから今度からは気をつけろ」
「グワッグワワッ」
何度も頭を縦に振ったグワだ。大人になるまで、もう迷子にはならないだろう。
そして、今度はピヨのほうに向き直ると自分の羽根を一枚取る。その羽根をピヨに差し出した。これを見たピヨも自分の羽根を一枚取ってグワに差し出す。
友達の証の羽根の交換といったところだろうか。
お互い、受け取った羽根を自分の体に差しこんだ二匹は、別れを惜しむように抱き合った。他のカルガモたちも二匹の出会いと別れに感動したかのように声を上げはじめる。
「まあ、せっかく大量の魚もあるんだ。まずは別れを惜しむ前に食事をしようか。皆さん、おなかもすかせているようだしな」
俺の提案を切っ掛けにカルガモたちは声をあげる。どうやら賛成ということらしい。
人間から見たら、いや、他の動物から見たら、猫の俺がカルガモたちに囲まれているなんて、どう見えるのだろうか。
皆で大量の魚を食べ、まるで宴会騒ぎのようになる。俺は自分が釣ったニジマスを口にした。こういっちゃなんだけど、ピヨが釣ったどの魚よりも大きい気がする。
こんなに賑やかな食事をしたのははじめてだと思うし、川魚がこんなに美味いと思ったのもはじめてだ。
釣った魚がなくなると、カルガモたちは次々と飛び立っていく。ピヨもグワと握手をして、親、兄弟と一緒に帰っていくグワを、姿が見えなくなるまで見届けた。
その時だ。
「へえ、久しぶりに川に狩りに来ようと思ってきて見たら。面白いものが見れたな」
草むらから声が聞こえて、三匹の黒猫が姿を見せる。
そうか、釣りの絶好ポイントを探して歩いてきたが、ここは隣町だ。こいつらとその仲間たちがいても不思議じゃない。
俺とピヨの前には、隣町のボスのクロと、その仲間であるスミとヤミがいた。
いくら鳥の天敵とはいえ、さすがに俺もこれだけのカルガモに見つめられると尻込みしてしまう。グワはというと、集まったカルガモを見て必死に親を捜していた。
そう、俺はピヨにこう頼んだのである。
『カルガモの皆さん。たくさんの魚をご用意しましたので、迷子の子ガモの親を見つける協力をしてください』そう叫べと。
タダで食べ物を貰えるというのであれば、誰だって興味を示して寄ってくる。しかも、ただ「食べてください」というのではなく、理由を提示しての客引き。
何も裏を感じさせない宣伝であり、しかも呼ぶ相手も「カルガモの皆さん」と限定している。そのため、同種しかこないという安心感も与えているのだ。
これこそ、このボロスさまの本領発揮、真骨頂である。
「ピヨッピッピヨッピピッピ」
ピヨが話している内容は、「この子ガモに見覚えはないですか? お母さんはいませんか」である。カルガモたちは大量に積みあがった魚を見て、魚を貰えることに嘘はないと確信したのか、その場で「グワッ」「グワワッ」と話しはじめた。
しかし、俺には鳥語はわからない。これ、流れ的に良いのか、悪いのか? 不安になって、ピヨを見る。ピヨはというと真剣な表情だ。とはいえ、こいつの瞳からは感情がつかみにくいんだけど。
けどまあ、たくさん集まったものだな。この作戦がいつも使えたら、俺も鳥肉には困らないのだろうけど。と、今度は本音を表に出さないように妄想する。
「グワッグワワッグワッ」
そこで、グワが突然、大きな声で鳴きはじめた。その視線の先にはカルガモの親子がいる。親もグワに気づいたのか声を出し、グワの兄弟とも思える子ガモも一斉に鳴きはじめた。そして、互いに駆け寄り、羽根をばたつかせ、喜びを動きで表現する。
たくさんの兄弟たちに囲まれ、俺にはどれがグワなのかわからなくなってしまった。
気になってピヨを見ると、カルガモの親子をじっと見つめている。カルガモ親子の再会を喜んでいるのか、それとももっと長く友達でいたかったのか。あるいは――。
「グワッ」
錯綜する想いに浸っていたため、グワが戻ってきたのに気づかなかった。そして、深く頭を下げる。これは、お礼ということだろうか。
「もう親とはぐれんじゃないぞ。俺さまが、たまたま器がでかい猫だったから食べられなかったんだからな。もっと怖い猫に会っていたら頭から食われるところだったぞ。だから今度からは気をつけろ」
「グワッグワワッ」
何度も頭を縦に振ったグワだ。大人になるまで、もう迷子にはならないだろう。
そして、今度はピヨのほうに向き直ると自分の羽根を一枚取る。その羽根をピヨに差し出した。これを見たピヨも自分の羽根を一枚取ってグワに差し出す。
友達の証の羽根の交換といったところだろうか。
お互い、受け取った羽根を自分の体に差しこんだ二匹は、別れを惜しむように抱き合った。他のカルガモたちも二匹の出会いと別れに感動したかのように声を上げはじめる。
「まあ、せっかく大量の魚もあるんだ。まずは別れを惜しむ前に食事をしようか。皆さん、おなかもすかせているようだしな」
俺の提案を切っ掛けにカルガモたちは声をあげる。どうやら賛成ということらしい。
人間から見たら、いや、他の動物から見たら、猫の俺がカルガモたちに囲まれているなんて、どう見えるのだろうか。
皆で大量の魚を食べ、まるで宴会騒ぎのようになる。俺は自分が釣ったニジマスを口にした。こういっちゃなんだけど、ピヨが釣ったどの魚よりも大きい気がする。
こんなに賑やかな食事をしたのははじめてだと思うし、川魚がこんなに美味いと思ったのもはじめてだ。
釣った魚がなくなると、カルガモたちは次々と飛び立っていく。ピヨもグワと握手をして、親、兄弟と一緒に帰っていくグワを、姿が見えなくなるまで見届けた。
その時だ。
「へえ、久しぶりに川に狩りに来ようと思ってきて見たら。面白いものが見れたな」
草むらから声が聞こえて、三匹の黒猫が姿を見せる。
そうか、釣りの絶好ポイントを探して歩いてきたが、ここは隣町だ。こいつらとその仲間たちがいても不思議じゃない。
俺とピヨの前には、隣町のボスのクロと、その仲間であるスミとヤミがいた。