ボロスとピヨのてんわやな日常
自信を持て!
×月▽日(晴れ)午前七時
ハクジャはピヨの身の上が気になったのだろう。薬を飲んで熟睡したピヨが、話を聞いていないと見ると、黄金色のタマゴについて調べると言ってくれた。
親父と美姫もピヨのことが気になっていたようだ。ハクジャと同じく調べてくれると言ってくれた。三帝王の協力を得たのだから、これほど頼もしいことはない。
その日は安心して、俺も熟睡。と、いう流れになるはずだったのだが、ピヨをくわえて佐藤宅に帰った直後、薬の効果のせいか体が熱くなり、俺は一晩中駆け回ったのだった。
全力疾走で隣町の境まで行き、欄干から川へダイブ。驚くカルガモたちを横に数百メートルほど泳いだ後、隣町で一番高いと有名な三本杉のてっぺんまで一気に登り、三本の杉を渡り飛んだ。降りたところでクロ一行がきて、俺に話しかけてきたのだが、どうやらクロはサクッの後遺症で、またピヨマーになっていたようで。詩を詠むクロの後頭部に、強烈な猫パンチ突っこみを入れた覚えがある。
そう、俺には覚えがあるだけなのだ。それなので、本当に隣町に行ったのか、一連の行為をしたのか、夢のようで定かではない。
もし、出来ていたとしたら怖いものがある。だって、薬を飲んだだけであの効果だぞ。完全にチート能力を得られる薬じゃん。あんなの世に出したら、チートな猫さんの頂上決戦が街の至るところで開幕してしまうはずだ。
「気持ち悪い。吐き気がする。三日寝ずともビンビンと言っていたの、本当かな」
「ピヨッ!」
そうつぶやくと、元気のいいピヨの声が返ってきた。どうやら栄養剤を飲んで、ぐっすり寝たことで、全快したらしい。瞳にも光が戻っている。相変わらず、感情は読み取れない瞳だけど。
「……はあ、お前のせいで、俺はあんな薬飲みこんだんだぞ。俺が元気になったら、絶対に食ってやるからな。覚えておけ。俺は怖い猫さんなんだ。だから今日は、英気を養うために寝る」
うつ伏せになった俺の前でピヨは鳴きながら跳ねる。いつも通りの動きなのだが、体調をくずしている時にされると、無性に腹が立つ。その時だ。
「おはようございます。ボロス殿……突然で不躾だと思うのですが、拙者の話を聞いていただけないでござろうか」
忘れかけていた特徴的な話し方。ひょっこりと姿を見せたサバ白猫を見て、俺は思わず息を吐いた。
「千代丸か……悪いけど、今日は無理だ。話なら明後日にしてくれ」
忍者のタマゴの千代丸は田舎育ちだ。そのため、街での常識には詳しくない。つまり、トラブルメーカーなのである。そんな千代丸が持ってきた悩み。嫌な予感しかしない。
「明後日だと、もっと大変なことになっていそうなのです。今でさえ、火をつけられたり、石をぶつけられて大怪我をしているのですから」
千代丸の言葉からは真相が見えない。しかし、俺は何となく捉えることができた深刻さに、体を起こしていた。
「火や石って……千代丸、お前大丈夫なのか? 見たところ怪我はないようだけど」
項垂れている千代丸に大きな怪我はなさそうだ。と、いうことは、違う者が被害に遭っているのだろう。
「ボロス殿と別れてから、吾輩はある方々と知り合ったのです。すごく優しい心を持った人間たちです。お蔭で食べ物にも困らず、自由気ままに出掛けて一流の忍になる修業もできていたのです。けれど、三日前に事件が起きました。悪い人間が彼らを襲ったのです」
「えっと。話から概要があまり理解できないんだけど。優しい心を持った人間たちって、一体、どんな人達なんだ? 性格からだけじゃ把握できないし……それと悪い人間って?」
「子供です。たくさんの子供。ゲンさんが頭に石をぶつけられました。病院に行きたくても、お金がないらしく行けないそうで……」
千代丸の話が飛び飛びで、俺には理解できない。体調が悪いからと理由をつけて、寝ながら聞いていたら、いつまでも終わりが見えなさそうだ。
「わかった。わかった。お前の説明だと全くわからないから、そのゲンさんとか悪い人間に会えるところに案内してくれ。但し、面倒なことなら俺は途中で帰るぞ」
答えた途端、千代丸の表情が明るくなる。千代丸が街で頼れる存在といったら、俺しかいないだろうからな。今まで不安で仕方なかったのだろう。
「川に行けばゲンさんたちに会えます。吾輩、彼らに焼き鳥なるものをご馳走になったのでござるよ。あんな美味な物を食べたのははじめてで」
「川か。そういえば橋を渡ったところに焼き鳥屋があったな。あそこの焼き鳥かあ」
万全の状態ではないが、腹がへったら餌を探すしかない訳で。千代丸の話から推測すると、行くことで餌にありつけることができそうだ。
「よし、行くぞピヨ。お前のせいで俺は体調不良になったんだから、俺の餌くらいは調達してくれよ」
千代丸がいう優しい人間と悪い人間とは、一体、どのような者なのか。
今回ばかりは走って行く元気はなく、ゆっくりと歩いて目的地に向かう俺たちだった。
ハクジャはピヨの身の上が気になったのだろう。薬を飲んで熟睡したピヨが、話を聞いていないと見ると、黄金色のタマゴについて調べると言ってくれた。
親父と美姫もピヨのことが気になっていたようだ。ハクジャと同じく調べてくれると言ってくれた。三帝王の協力を得たのだから、これほど頼もしいことはない。
その日は安心して、俺も熟睡。と、いう流れになるはずだったのだが、ピヨをくわえて佐藤宅に帰った直後、薬の効果のせいか体が熱くなり、俺は一晩中駆け回ったのだった。
全力疾走で隣町の境まで行き、欄干から川へダイブ。驚くカルガモたちを横に数百メートルほど泳いだ後、隣町で一番高いと有名な三本杉のてっぺんまで一気に登り、三本の杉を渡り飛んだ。降りたところでクロ一行がきて、俺に話しかけてきたのだが、どうやらクロはサクッの後遺症で、またピヨマーになっていたようで。詩を詠むクロの後頭部に、強烈な猫パンチ突っこみを入れた覚えがある。
そう、俺には覚えがあるだけなのだ。それなので、本当に隣町に行ったのか、一連の行為をしたのか、夢のようで定かではない。
もし、出来ていたとしたら怖いものがある。だって、薬を飲んだだけであの効果だぞ。完全にチート能力を得られる薬じゃん。あんなの世に出したら、チートな猫さんの頂上決戦が街の至るところで開幕してしまうはずだ。
「気持ち悪い。吐き気がする。三日寝ずともビンビンと言っていたの、本当かな」
「ピヨッ!」
そうつぶやくと、元気のいいピヨの声が返ってきた。どうやら栄養剤を飲んで、ぐっすり寝たことで、全快したらしい。瞳にも光が戻っている。相変わらず、感情は読み取れない瞳だけど。
「……はあ、お前のせいで、俺はあんな薬飲みこんだんだぞ。俺が元気になったら、絶対に食ってやるからな。覚えておけ。俺は怖い猫さんなんだ。だから今日は、英気を養うために寝る」
うつ伏せになった俺の前でピヨは鳴きながら跳ねる。いつも通りの動きなのだが、体調をくずしている時にされると、無性に腹が立つ。その時だ。
「おはようございます。ボロス殿……突然で不躾だと思うのですが、拙者の話を聞いていただけないでござろうか」
忘れかけていた特徴的な話し方。ひょっこりと姿を見せたサバ白猫を見て、俺は思わず息を吐いた。
「千代丸か……悪いけど、今日は無理だ。話なら明後日にしてくれ」
忍者のタマゴの千代丸は田舎育ちだ。そのため、街での常識には詳しくない。つまり、トラブルメーカーなのである。そんな千代丸が持ってきた悩み。嫌な予感しかしない。
「明後日だと、もっと大変なことになっていそうなのです。今でさえ、火をつけられたり、石をぶつけられて大怪我をしているのですから」
千代丸の言葉からは真相が見えない。しかし、俺は何となく捉えることができた深刻さに、体を起こしていた。
「火や石って……千代丸、お前大丈夫なのか? 見たところ怪我はないようだけど」
項垂れている千代丸に大きな怪我はなさそうだ。と、いうことは、違う者が被害に遭っているのだろう。
「ボロス殿と別れてから、吾輩はある方々と知り合ったのです。すごく優しい心を持った人間たちです。お蔭で食べ物にも困らず、自由気ままに出掛けて一流の忍になる修業もできていたのです。けれど、三日前に事件が起きました。悪い人間が彼らを襲ったのです」
「えっと。話から概要があまり理解できないんだけど。優しい心を持った人間たちって、一体、どんな人達なんだ? 性格からだけじゃ把握できないし……それと悪い人間って?」
「子供です。たくさんの子供。ゲンさんが頭に石をぶつけられました。病院に行きたくても、お金がないらしく行けないそうで……」
千代丸の話が飛び飛びで、俺には理解できない。体調が悪いからと理由をつけて、寝ながら聞いていたら、いつまでも終わりが見えなさそうだ。
「わかった。わかった。お前の説明だと全くわからないから、そのゲンさんとか悪い人間に会えるところに案内してくれ。但し、面倒なことなら俺は途中で帰るぞ」
答えた途端、千代丸の表情が明るくなる。千代丸が街で頼れる存在といったら、俺しかいないだろうからな。今まで不安で仕方なかったのだろう。
「川に行けばゲンさんたちに会えます。吾輩、彼らに焼き鳥なるものをご馳走になったのでござるよ。あんな美味な物を食べたのははじめてで」
「川か。そういえば橋を渡ったところに焼き鳥屋があったな。あそこの焼き鳥かあ」
万全の状態ではないが、腹がへったら餌を探すしかない訳で。千代丸の話から推測すると、行くことで餌にありつけることができそうだ。
「よし、行くぞピヨ。お前のせいで俺は体調不良になったんだから、俺の餌くらいは調達してくれよ」
千代丸がいう優しい人間と悪い人間とは、一体、どのような者なのか。
今回ばかりは走って行く元気はなく、ゆっくりと歩いて目的地に向かう俺たちだった。