ボロスとピヨのてんわやな日常
親子と仲間と友達と
〇月△日(晴れ時々曇り)午前十時
日がな一日、たまにはのんびりしたい時も野良猫にはあるわけで。しかし、餌を得なければいけない俺たちに、そんな機会は滅多にないわけである。
昨晩、居候をさせてもらったのは西田家だ。ここは父親と母親、小学三年生の少年の三人が住んでいる。時々、少年の友達がきたりするが、俺は煩いのが嫌いなので縁側に隠れることにしている。
昨晩は、西田家の少年が置いてくれていたドライフードをいただいた。缶詰のほうが俺は好きなのだが、ここはいつもドライフードだ。だから、たまにきて、西田家の少年にわかるように鳴いて餌の催促をする。そうしたら貰えるのだ。
すこし残ったドライフードを口にして、俺は昨日のことを考えていた。
昨日は散々な一日だった。
タマゴかけおかかご飯はピヨが生まれたことでおかかご飯になり、生まれたばかりのピヨに煮干しまで取られ、ピヨが発端でクロに喧嘩をうられるわ、愛奈の特等席はピヨに取られるわ。
「全部、お前のせいじゃないかああ!」
そうだ、昨日は朝から晩までピヨ尽くめだったのである。
「俺さまの威厳が……たった一日でニャン威厳からピヨ威厳に……」
ピヨも目覚めたのか、俺の顔を見て「ピヨ」と鳴いて首を傾げる。
安穏とした生活が、ピヨのせいで激しい変化をしてしまった。俺は猫だ。猫は日常生活が変化するのが嫌いなのだ。居候している家の家具が動かされただけでショック受けんだぞ。俺たち猫は繊細にできているんだ。グレートハイパーミラクルピュアなのだ。
そう思っていると、ピヨが不用意にも背中を見せる。これはいける。今日こそ背後からパクリと食ってやる。
これで、てんやわんやな日常も終わりだ。この物語も本日完結だ!
と、思って突撃した瞬間、ピヨが勢いよく土を掘りはじめ、背後にいた俺は土を思いっきり受けた。
「うぎゃああっ! 目が目がー!」
俺が叫んでいるのもお構いなしに、ピヨは掘ることに夢中である。
おいおい、何を考えてんだ。地球の裏側にまで行くつもりか?
目に入った土を取って仕方なくピヨを観察していると、ピヨが得意げに鼻を鳴らして振り返る。そのくちばしにはミミズがいた。そのミミズを地面に置く。
そして、再び穴掘りを開始し、今度はムカデを掘り出す。そのムカデは隣に並べる。
これは何? 食べるんじゃなくて掘るだけ? ピヨの趣味のひとつなのか?
そう思っていると、今度はカエルの死骸を見つけて隣に並べる。
俺がグルメだしピュアだ。だから、こんな物を目の前に並べられると気持ち悪くなってくる。その時、ゴソリという何かが動いた音がした。
「それはカラスが隠した餌だよ。もとに戻さないと、つつかれるからやめたほうがいい」
そういえば、いつも小屋の中にいるので忘れていた。西田家にはもう一匹家族がいる。それが今、俺たちに話しかけてきたボストンテリアの虎ノ介だ。その名前の由来は毛色らしい。年は十二歳で高齢である。そのためか、白髪混じりになったその顔には番犬としての威厳は感じられない。
「猫とヒヨコが一緒なんて、面白い組み合わせだね。君、なにか芸ができる?」
なんとも犬らしい質問に、ピヨは女子高でやったラジオ体操を披露しはじめた。
「すごいなあ。僕は腰が痛いから、もうそこまで動けないや」
マイペースな虎ノ介はのほほんと答えると、また小屋に戻ろうとする。
その時、勢いよく玄関が開き、西田家の三人が外に出てきた。俺は見つかると煩そうなので縁側に隠れる。ピヨも倣うように入りこんできた。
「虎ノ介、今日は留守番よろしくな」
少年に撫でられて、虎ノ介は尾を振って応える。けれど、一緒に出掛けられないので寂しそうだ。不思議なことに犬ってのは、飼い主に何処にでもついていきたいみたいだからな。俺たち猫には考えられない。
親子三人は車に乗ると、そのまま走り去っていった。虎ノ介は飼い主が見えなくなるまで、ずっと鼻を鳴らし続けていた。車が見えなくなると尾と耳を垂れ下げ、残念そうに小屋に戻ってくる。
「幸太、お土産買ってきてくれるかな。ササミジャーキーがいいんだけど……できたらソフトタイプで」
ポジティブな奴だな。だから長生きしているんだろうけど。虎ノ介は水を飲むと、また俺たちを見た。
「ねえねえ、ボロス。なにか面白い話をしてくれよ。それ聞きながら寝るから」
「面白い話で寝るって、それかなり難易度高い注文だと思うのですが!」
思わず突っこんでしまった。すると、虎ノ介は笑ったような表情を見せる。
「んふふ……やっぱりボロスは面白いや。尾も白い」
と言いながら、虎ノ介は自分の尾を見せる。
――いや、お前の尾は白くないよな? それにそのネタは結構、使い古されているし。やっぱり俺はこいつが苦手だ。また長話に付き合わされそうだから、出掛けるとしよう。
そう思っていると、正装した男が来て西田家のチャイムを押した。
当然、家主は出掛けているので出てこない。そのため、諦めるのかと思いきや、男は辺りを見回しつつ西田家の庭に回る。そして、窓を叩き割っていたのだった。
日がな一日、たまにはのんびりしたい時も野良猫にはあるわけで。しかし、餌を得なければいけない俺たちに、そんな機会は滅多にないわけである。
昨晩、居候をさせてもらったのは西田家だ。ここは父親と母親、小学三年生の少年の三人が住んでいる。時々、少年の友達がきたりするが、俺は煩いのが嫌いなので縁側に隠れることにしている。
昨晩は、西田家の少年が置いてくれていたドライフードをいただいた。缶詰のほうが俺は好きなのだが、ここはいつもドライフードだ。だから、たまにきて、西田家の少年にわかるように鳴いて餌の催促をする。そうしたら貰えるのだ。
すこし残ったドライフードを口にして、俺は昨日のことを考えていた。
昨日は散々な一日だった。
タマゴかけおかかご飯はピヨが生まれたことでおかかご飯になり、生まれたばかりのピヨに煮干しまで取られ、ピヨが発端でクロに喧嘩をうられるわ、愛奈の特等席はピヨに取られるわ。
「全部、お前のせいじゃないかああ!」
そうだ、昨日は朝から晩までピヨ尽くめだったのである。
「俺さまの威厳が……たった一日でニャン威厳からピヨ威厳に……」
ピヨも目覚めたのか、俺の顔を見て「ピヨ」と鳴いて首を傾げる。
安穏とした生活が、ピヨのせいで激しい変化をしてしまった。俺は猫だ。猫は日常生活が変化するのが嫌いなのだ。居候している家の家具が動かされただけでショック受けんだぞ。俺たち猫は繊細にできているんだ。グレートハイパーミラクルピュアなのだ。
そう思っていると、ピヨが不用意にも背中を見せる。これはいける。今日こそ背後からパクリと食ってやる。
これで、てんやわんやな日常も終わりだ。この物語も本日完結だ!
と、思って突撃した瞬間、ピヨが勢いよく土を掘りはじめ、背後にいた俺は土を思いっきり受けた。
「うぎゃああっ! 目が目がー!」
俺が叫んでいるのもお構いなしに、ピヨは掘ることに夢中である。
おいおい、何を考えてんだ。地球の裏側にまで行くつもりか?
目に入った土を取って仕方なくピヨを観察していると、ピヨが得意げに鼻を鳴らして振り返る。そのくちばしにはミミズがいた。そのミミズを地面に置く。
そして、再び穴掘りを開始し、今度はムカデを掘り出す。そのムカデは隣に並べる。
これは何? 食べるんじゃなくて掘るだけ? ピヨの趣味のひとつなのか?
そう思っていると、今度はカエルの死骸を見つけて隣に並べる。
俺がグルメだしピュアだ。だから、こんな物を目の前に並べられると気持ち悪くなってくる。その時、ゴソリという何かが動いた音がした。
「それはカラスが隠した餌だよ。もとに戻さないと、つつかれるからやめたほうがいい」
そういえば、いつも小屋の中にいるので忘れていた。西田家にはもう一匹家族がいる。それが今、俺たちに話しかけてきたボストンテリアの虎ノ介だ。その名前の由来は毛色らしい。年は十二歳で高齢である。そのためか、白髪混じりになったその顔には番犬としての威厳は感じられない。
「猫とヒヨコが一緒なんて、面白い組み合わせだね。君、なにか芸ができる?」
なんとも犬らしい質問に、ピヨは女子高でやったラジオ体操を披露しはじめた。
「すごいなあ。僕は腰が痛いから、もうそこまで動けないや」
マイペースな虎ノ介はのほほんと答えると、また小屋に戻ろうとする。
その時、勢いよく玄関が開き、西田家の三人が外に出てきた。俺は見つかると煩そうなので縁側に隠れる。ピヨも倣うように入りこんできた。
「虎ノ介、今日は留守番よろしくな」
少年に撫でられて、虎ノ介は尾を振って応える。けれど、一緒に出掛けられないので寂しそうだ。不思議なことに犬ってのは、飼い主に何処にでもついていきたいみたいだからな。俺たち猫には考えられない。
親子三人は車に乗ると、そのまま走り去っていった。虎ノ介は飼い主が見えなくなるまで、ずっと鼻を鳴らし続けていた。車が見えなくなると尾と耳を垂れ下げ、残念そうに小屋に戻ってくる。
「幸太、お土産買ってきてくれるかな。ササミジャーキーがいいんだけど……できたらソフトタイプで」
ポジティブな奴だな。だから長生きしているんだろうけど。虎ノ介は水を飲むと、また俺たちを見た。
「ねえねえ、ボロス。なにか面白い話をしてくれよ。それ聞きながら寝るから」
「面白い話で寝るって、それかなり難易度高い注文だと思うのですが!」
思わず突っこんでしまった。すると、虎ノ介は笑ったような表情を見せる。
「んふふ……やっぱりボロスは面白いや。尾も白い」
と言いながら、虎ノ介は自分の尾を見せる。
――いや、お前の尾は白くないよな? それにそのネタは結構、使い古されているし。やっぱり俺はこいつが苦手だ。また長話に付き合わされそうだから、出掛けるとしよう。
そう思っていると、正装した男が来て西田家のチャイムを押した。
当然、家主は出掛けているので出てこない。そのため、諦めるのかと思いきや、男は辺りを見回しつつ西田家の庭に回る。そして、窓を叩き割っていたのだった。