汗と涙と楽しさと
びっくりして涙なんて引っ込んだ。あの、中村がそんな風に声を荒げる姿を三年間一度も見たことがなかったからだ。
中村は常に周囲に気をつかい、仲間のささいなことも見逃さず何かあれば相談に乗り的確なアドバイスをするようなやつだった。厳しい言葉を言うこともあったが、その後の絶妙なフォローもあり、みんなから慕われていた。
ベンチの前に並び相手校の校歌を聞く間、三年間のことが走馬灯のように思い出される。
強豪校の練習についていけず悔しい気持ちでいっぱいだった一年の頃、二年にしてエースになり、プレッシャーに負けそうになったあの頃、選抜の県予選で準優勝に泣いた今年の春、甲子園に必ず行くんだとチームがよりまとまって練習に励んだ夏。全部あったから今の俺がいる。
どれも欠けたらいけない大事な宝物。中村はああ言ったが、俺の顔には汗だか涙だかわからない水分がたくさんつたっていた。