婚約者はホスト!?③~夫婦の絆~
瀬崎さんと初めて会ったのは、入社式を終えて初出勤の日だった。
この営業室のドアの前でモジモジしているところを瀬崎さんに声をかけられた。
『杉本さんだよね? 瀬崎です。今日から俺の下について貰うことになったからよろしくな』
そう言って、ニコリと笑った瀬崎さんに、私は一瞬で心を奪われてしまった。
こんなに格好いい人が、現実の世界にいるものなのかとため息が出るほど彼の容姿は完璧だった。
でも 彼の薬指を見て、私の恋は儚く散った。
まあ 恋と言っても、芸能人に憧れを抱くような感覚だったから、そんな大げさなものじゃなかったけど…。
そんな瀬崎さんのことを、私のように憧れの目で見ている女子社員は沢山いたようで、女子更衣室ではいつも瀬崎さんの話題で盛り上がっていた。
彼は常に営業成績トップを走り続けているそうで、社内では有名人だった。
既婚者にも関わらず、本気で告白する人もいると聞いて、奥さんが可哀想だなと思った。
携帯番号の書かれたメモが瀬崎さんのデスクに置かれていることもあったし、帰りに待ち伏せされているのも目撃した。
『大変ですね。』
そう私が声をかけると、心底ウンザリした顔でこう言った。
『うまくやらないと、あとが大変でさ…。なつに何かされても怖いしな…。』