fireworks【ファイヤーワークス】…花火大会
婚約者
コーヒーとケーキ皿とフォークを持って
「はい。哉太も食べるでしょう?」
箱を開けたら美味しそうなケーキが五つも入ってる。
「哉太はレアチーズよね?」
「うん」
「じゃあ私は、これにしよう。カシスのムース?」
「そうだよ。麻梨奈、好きだろう」
「ありがと。覚えてくれてたんだ」
二人でコタツに入ってケーキを食べる。本当は聴きたいことがあるのに……。
「麻梨奈、話しがあるんだ」
そう切り出したのは哉太。
「何? どんな話?」
そう聴きながら顔から血の気が引くのを感じた。
「俺、三月いっぱいで会社を辞める。辞めて長野に帰る」
「えっ?」
突然の話に気持ちがついていかない……。
「親父が、ちょっと血圧が高くて軽い発作で倒れて……」
沈痛な面色ってこういう事を言うんだと思った。
「お父様、大丈夫なの?」
恐る恐る聴いてみる……。
「うん。別に体に麻痺が残るとかいう発作じゃなかったから。でも親父も、もう六十歳を超えたし……。無理はさせられないから」
「帰って工務店を継ぐってこと?」
そういう事だよね。そういう……。
哉太の実家は長野でも大きな工務店。哉太は長男だ。五歳年上のお姉さんは公務員のご主人と長野市内に居る。
「元々、大学を卒業したら、すぐ戻る約束だったのをわがまま言って、こっちに残ったから」
哉太が私を真っ直ぐ見てる……。
「…………」
何を言えば正解なのかな?
こんな状況で簡単に言葉なんて出て来ない……。
「正直に言うよ。俺、向こうに婚約者がいる。親同士が勝手に決めたんだけど……遠縁の子なんだ」
「それって……。もしかして赤っぽい茶髪のロングヘアの人?」
言いたくなかった言葉だった……。
「えっ? 何で?」
哉太が驚いているのが良く分かる。
「みかん持って行った時、哉太のベッドで眠ってた……」
あの時の光景は忘れるなんて出来ないくらい私には衝撃的だった……。
「あいつ時々こっちに来て、俺が留守だと大家さんに妹ですって言って鍵を開けてもらってるみたいなんだよ。全くわがまま娘は困ったもんだよ」
呆れた口調で哉太は言う。
「じゃあ、哉太の居る時も泊まって行ったりしてたんだ……」
聴きたくもない事なのに口から出てしまう。
「ベッドは、あいつに占領されて俺は絨毯の上で寝てたけどな」
面倒くさそうにそう言った。
「信じろって言うの? 婚約者なのに……」
「俺は、あいつに何もしてないよ。五つも下で子供の頃から知ってたから、そんな気になれないよ」
「でも……。長野に帰ったら結婚するんだ……」
認めたくもない現実……。
体温がどんどん下がっていくのを感じた。
指先が冷たい……。
「それは……」
哉太の顔に困惑の色が浮かんだ。
「私は……哉太の何だったのかな?」
泣きたくない。こんなところで泣きたくない。自分が惨めになるだけ……。
「はい。哉太も食べるでしょう?」
箱を開けたら美味しそうなケーキが五つも入ってる。
「哉太はレアチーズよね?」
「うん」
「じゃあ私は、これにしよう。カシスのムース?」
「そうだよ。麻梨奈、好きだろう」
「ありがと。覚えてくれてたんだ」
二人でコタツに入ってケーキを食べる。本当は聴きたいことがあるのに……。
「麻梨奈、話しがあるんだ」
そう切り出したのは哉太。
「何? どんな話?」
そう聴きながら顔から血の気が引くのを感じた。
「俺、三月いっぱいで会社を辞める。辞めて長野に帰る」
「えっ?」
突然の話に気持ちがついていかない……。
「親父が、ちょっと血圧が高くて軽い発作で倒れて……」
沈痛な面色ってこういう事を言うんだと思った。
「お父様、大丈夫なの?」
恐る恐る聴いてみる……。
「うん。別に体に麻痺が残るとかいう発作じゃなかったから。でも親父も、もう六十歳を超えたし……。無理はさせられないから」
「帰って工務店を継ぐってこと?」
そういう事だよね。そういう……。
哉太の実家は長野でも大きな工務店。哉太は長男だ。五歳年上のお姉さんは公務員のご主人と長野市内に居る。
「元々、大学を卒業したら、すぐ戻る約束だったのをわがまま言って、こっちに残ったから」
哉太が私を真っ直ぐ見てる……。
「…………」
何を言えば正解なのかな?
こんな状況で簡単に言葉なんて出て来ない……。
「正直に言うよ。俺、向こうに婚約者がいる。親同士が勝手に決めたんだけど……遠縁の子なんだ」
「それって……。もしかして赤っぽい茶髪のロングヘアの人?」
言いたくなかった言葉だった……。
「えっ? 何で?」
哉太が驚いているのが良く分かる。
「みかん持って行った時、哉太のベッドで眠ってた……」
あの時の光景は忘れるなんて出来ないくらい私には衝撃的だった……。
「あいつ時々こっちに来て、俺が留守だと大家さんに妹ですって言って鍵を開けてもらってるみたいなんだよ。全くわがまま娘は困ったもんだよ」
呆れた口調で哉太は言う。
「じゃあ、哉太の居る時も泊まって行ったりしてたんだ……」
聴きたくもない事なのに口から出てしまう。
「ベッドは、あいつに占領されて俺は絨毯の上で寝てたけどな」
面倒くさそうにそう言った。
「信じろって言うの? 婚約者なのに……」
「俺は、あいつに何もしてないよ。五つも下で子供の頃から知ってたから、そんな気になれないよ」
「でも……。長野に帰ったら結婚するんだ……」
認めたくもない現実……。
体温がどんどん下がっていくのを感じた。
指先が冷たい……。
「それは……」
哉太の顔に困惑の色が浮かんだ。
「私は……哉太の何だったのかな?」
泣きたくない。こんなところで泣きたくない。自分が惨めになるだけ……。