夕焼けに照らされて
 そこは、今は使われていない美術準備室。
 私が初めてこの部屋に入ったとき、ここは本当に学校なのかと思ってしまった。

 埃をかぶった古いカンバスや作品なんかが、部屋中にところせましと置かれている。大理石でできた像や、不思議な形のモチーフ。いつの時代の物かも分からないような、不思議な品々が床に散らばっていて、歩くことさえままならない。
 その上、蜘蛛の巣が部屋中に張り巡らされている。まさに、ジャングルとでもいうべき場所だった。

 きっと普通の人なら、この部屋のドアを開けた時点で、その異様な雰囲気と埃っぽさに耐えられなくなるだろう。
 そうして、すぐにドアを閉めて、くるりときびすを返して、早足で去っていくはずだ。もうこの部屋には近づきたくない、そう思いながら。

 この部屋の立地も相まって、こうして長い間、この部屋は一人の侵入者も許さずに、外界と隔てられた奇妙で恐ろしい世界を作り出していった。
 いつから使われなくなったのか誰も分からない。ただ一つ予測できること、それは、この不気味な部屋は、ずっと昔からあったということだけだ。 


 そんな不気味な部屋は、好奇心旺盛な高校生にとって、格好の噂のたねになる。
 様々な噂が飛び交い、憶測がまるで真実のように人から人へと伝えられていく。

 私が入学して三ヶ月、美術準備室の噂は新入生にも広がり、だんだんと恐ろしいものへと進化していった。幽霊、ポルターガイスト、悪魔、死神、呪い等々、噂された話を取り上げたらきりがない

 しかしながら、幸運なことに私が南校舎の美術準備室の噂を聞いたときにはもう、私はそこに何度も足を踏み入れていた。
 というか、もう掃除なんてこともしてしまっていたし、私物も持ち込んでいる。とはいっても、使っているのは窓のある南側の一部のスペースだけだが。

 おかげで、私は見るからにあやしいこの部屋にまつわる怪談話などを怖がる理由がなかった。その上、他の1年生たちがこの場所に寄り付かなくなり、美術準備室は私だけが独占できる場所となった。まさに秘密基地のような場所である。



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