夕焼けに照らされて
 工藤誠。聞いたことがある名前だった。クラスの女の子たちがこの名前を口にして、騒いでいた気がする。それに、この顔もクラスで見たことがあった。

 一つの考えが私の頭のなかに浮かぶ。

 それは、もしかすると、彼は私のクラスメイトなのではということであった。

 私は、はっとして顔を上げて彼を注意深く見た。確かにクラスで見たことがある顔だ。かすかな記憶ではあるが、間違いない。

 入学から3ヶ月がたった今。私は、はっきりいってクラスの半分の人の名前すら覚えていない。顔も覚えていない。覚える気もない。
 その見た目のよさから、おそらく工藤誠は、クラスでも目立つはずだ。女子が彼の周りに集まって騒いでいるだろう。
 私は、騒がしいのは苦手だ。喧騒をつれてくる彼の存在を無意識にしかいにいれないようにしていたみたいだ。


「今気がついたの? 僕と君、同じクラスだってこと。」

彼は私の視線に気がつくと、プッと吹き出して笑った。彼の笑った顔を見て、どきりとする。可愛い。

 私ははっとした。なに考えてんだ。
 もう一度深呼吸をして心を落ち着けた。相手のペースにのまれたくない。

 私は、工藤誠がなに考えてるのかよく分からずにいる。それに彼のことも全く知らない。初対面といってもいいくらいだ。
 ‘闘ったことのない相手と拳を交えるとき。一番大切なことは、相手を自分のペースにのせることだぞ。’
 おじいちゃんそうが言ってたっけ。まあ、これは喧嘩じゃないけど。



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