夕焼けに照らされて
「ここに、何のよう?」

私がそう訊くと、彼はまた、静かに口を開いた。

「探し物、してるんだ。」

そして、しばしの沈黙。彼は無表情のまま、再び窓の外に目を向けた。
 1人で勝手に警戒している自分が恥ずかしくなり、私は緊張をほどいた。思わずため息がこぼれる。探し物、か。


 日はほとんど暮れかけていた。窓から見える東の空は、深い青色に染まり始めている。美術準備室は、だんだんと薄暗くなり、二人の間の空気を心なしか重たくしているようだ。


 重苦しい空気のなか、最初にこの沈黙を破ったのは、誠だった。 
「ひかる。突然申し訳ないんだけどさ。僕の探し物、手伝ってくれないか。」

 本当に突然のお願いである。急に美術準備室に現れたと思えば、今度は探し物を手伝ってくれとは・・・。そういう誠は相変わらずの無表情である。申し訳ないという気持ちがまるっきり伝わってこない。
 私は、苦笑しつつも真面目に考えを巡らす。

 最大の謎は、なぜ私に頼むのかということだ。はっきりいって彼と私は初対面と言えるほどに全く関わってこなかった。それなのになぜ。私が美術準備室を占拠していることに関わりがあるということなんだろうか。入り口に散乱している物の配置から見て、今日まで誰か入ったという形成はなかった。
 これ以上考えても混乱するだけだと思い、誠自身にいくつか訊くことにした。

「何で私なんだ。それに、その探し物というのはこの美術準備室にある作品のなかにあったりする・・・」
 そのときだった。ほんの一瞬だけ、誠の顔に悲しそうな表情が浮かんだ。心に傷を負っているとでもいうような、つらそうな顔。
 私は、途中で言葉を切り、それ以上なにか訪ねるのはやめることにする。
 誠の表情を見て、質問しにくい気持ちになる。推測する限りでは、彼の探し物は、きっととても大事なものらしい。それも、多分なにか大きな秘密を持っている。


 私は、真剣な気持ちになって彼の顔を見つめる一方で、彼と関わることをどこか楽しみにしている自分がいることに驚く。不謹慎な気がしたので、少しばかり罪悪感が芽生えた。
 ごめんと、心のなかで目の前にいる悲しそうな表情の彼に謝っておいた。

「いいよ。手伝おう。」
 私は、はっきりと返事をした。

 そのときにはもう、彼はまたもとの無表情に戻っていたのだった。
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