恋愛シーソー



「先輩ね、去年の秋くらいまで、彼女いたのよ」

「…」

「他の1年には秘密だけど、3年の泉先輩」



彼女がいてもおかしくはないと思っていた。

サークルで集まると何故か恋愛の話にいつも発展する。
その時に決まって話題をふるのが薫先輩なのだが、彼は自分のことになるとはぐらかしてばかりで語ろうとしなかった。

それはそうだ。
元カノが同じ場にいたんだから。




泉先輩は、学部こそ違うが、同じテニスサークルの3年生だ。

面倒見がよくて器量もいい。
舞なんかはよく相談にのってもらっているようだった。


「そっか、あの人と…」

「…葵。今どう思った?」


あやめは正面の席から、隣に移動してきた。


「あんまり嬉しくなかったでしょ。今の聞いて」

「うん…」


できれば、聞きたくなかったと思う。


きっとこれから、薫先輩と泉先輩が並んでいるたびに、いろんなことを詮索していまうのだろう。



「ごまかしはきかないよ。あんた、好きなんだよ、先輩のこと」

「分かってるよ」


薄々気づいていた。

くじで先輩とペアになるたびに嬉しかったこと。ペアにならなかったたびに残念に思っていたこと。


移動する時、自然と先輩の近くを歩いていた。
話しやすいあやめの傍ではなくて。


「でもどうしたらいいか分からないの。だって…」


人を好きになって、つらい思いをしたのは初めてだ。
小学校の時、好きな男の子くらいいた。けれどこの気持ちは、その時とは全然違う。


「生まれて初めて恋したらそんなもんだよ」


思わず泣いてしまった自分を、あやめは優しくなだめてくれた。







私はこの日、初恋を自覚した。

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