恋愛シーソー
大会に向けての練習が終わったあとは、決まってみんなと食事に行く。
まぁ行き先はいっつも近くのファミレスだけれど。
大会に出るメンバーで女子は自分ひとり。
皆気を使ってくれているのか、いつも一番端の席を勧めてくれる。
「じゃあ俺ここ~」
そう言って薫先輩が隣に座ってきた。
途端緊張で体がこわばる。
「ぁ、ずるい!!一人で花を占領してんじゃねぇぞ!!」
太郎先輩がぶーぶーとヤジをとばす。
それに薫先輩はべーっと舌を出した。
「やだよっ。男の隣に座るより葵ちゃんの隣がいいもん~」
「それが贅沢だっていってんだよっ。おい、萩もなんか言ってやれ!!」
「何故僕ですか…」
だいたいこういうときに引き合いに出されるのは萩くんだ。
無口なわりには付き合いもいいし、先輩達からの評判はいい。
平等をきすということで、隣は薫先輩、そして正面に太郎先輩が座ることになった。
太郎先輩はいいとして、隣に座っている存在に視線を向けられない…。
実は自分、意外と食べる。
練習あとの食事はいつもどんぶりや定食ものに目がいくのだが…。
「…オムライスで」
なぜか量が少なめの、若干可愛らしいものを注文してしまう。
前あやめに言ったら爆笑されて、『それが恋の力ってものよ』と言われてしまった。
もちろん、食べるのも遅めのペースで。
お行儀よく、お行儀よく…
オムライスを睨むようにして、ぼとりとスプーンから落としたりなどしないように、全身系を集中させて食べていた。
隣の席なんて、いつ見られるかわかったものじゃない。
かと言って、見られているかどうか、隣を見て確かめる勇気も、小心者の自分は持っていなかった。
けれど大会までの1ヶ月間。
毎日先輩の顔が見たいがために、毎日のように練習には通っていた。
この時の自分は、心底、恋する自分を楽しんでいた。