咆哮ストロベリー
生ぬるい何かが、頬を伝った。
いつか彼女が触れてくれたその頬が、悲しい温度で満たされていくのを、拭うことすらできないままで、僕はただ、目を閉じた。
せめて僕が彼女と同じ言葉を話せたのなら、行かないで、とそう言えたのだろうか。せめて僕が、誰にも傷をつけないような、彼女と同じ真っ白な柔い指を持っていたのなら、背中を向けた彼女を引き止めて、この腕におさめることが出来たのだろうか。
枯れた喉から、ひゅるひゅると情けない声がもれて、いつしかそれは言葉にもならない叫び声になった。僕はきっと、君のことを愛していたんだ。君が微笑みかけてくれるなら、朝がどれだけ遠くても、きっと大丈夫だと思えていたんだ。それだけだった、それだけだったのに。
夢で別れた彼女の背中を想いながら、叫び続けて、喉が枯れて、何かが頬を伝って落ちて、それでも僕は、君のいる優しい世界の言葉では、愛していたとさえ、紡げなかった。
【咆哮ストロベリー】