Uncontrolled(アンコントロールド)
「星名は、ソレな」
それ、と航平が指すのは、ここの準備室の合い鍵。きっとそうなのかなとは思っていた。この半年、二人の逢瀬を静かに見守ってきた、ただひとつのもの。
「だからって、あんま入り浸ったりしないでちゃんと勉強しろよ。俺のこと、追い掛けてくるんだろ?」
航平は春から東京の大学に進学する事が決まっていた。誰もが一度は耳にしたことがある名門校だ。追い掛けていくと宣言した時はまだ志望校を聞く前だったから、いざ彼の口から学校名を聞いたとき一気に顔が青ざめた。県下一の進学校に通っているとはいえ、その中でも毎年ほんの数名しか合格者を出さない難関校。身の程知らずにも程があると自分を恥じた。でも、だからこそ覚悟がついたのかもしれない。
「先輩」
星名は勇気を振り絞るときゅっと唇を引き結び、航平を呼ぶ。
振り向いた彼のきれいなカーブを描く額の上で、整えられた前髪がはらりと乱れた。
「ここに思い出を残していってください。先輩に次に会える日まで頑張れるように」
あと二年。航平と出会ってようやく意味を持った自分の存在。この先、彼がいない毎日の中でどんな価値を見い出せというのだろう。そう考えると永遠に思えるほど気が遠くなる。これから先の事なんて分からない。でも、今この瞬間、この気持ちはずっと変わることはないと信じている。
星名を捉える航平の双眸の奥の瞳孔が開いていく。これまで何ひとつ我侭を言わなかった彼女からの初めてのお願いに、というよりは、意図することに驚いたのかもしれない。
それ、と航平が指すのは、ここの準備室の合い鍵。きっとそうなのかなとは思っていた。この半年、二人の逢瀬を静かに見守ってきた、ただひとつのもの。
「だからって、あんま入り浸ったりしないでちゃんと勉強しろよ。俺のこと、追い掛けてくるんだろ?」
航平は春から東京の大学に進学する事が決まっていた。誰もが一度は耳にしたことがある名門校だ。追い掛けていくと宣言した時はまだ志望校を聞く前だったから、いざ彼の口から学校名を聞いたとき一気に顔が青ざめた。県下一の進学校に通っているとはいえ、その中でも毎年ほんの数名しか合格者を出さない難関校。身の程知らずにも程があると自分を恥じた。でも、だからこそ覚悟がついたのかもしれない。
「先輩」
星名は勇気を振り絞るときゅっと唇を引き結び、航平を呼ぶ。
振り向いた彼のきれいなカーブを描く額の上で、整えられた前髪がはらりと乱れた。
「ここに思い出を残していってください。先輩に次に会える日まで頑張れるように」
あと二年。航平と出会ってようやく意味を持った自分の存在。この先、彼がいない毎日の中でどんな価値を見い出せというのだろう。そう考えると永遠に思えるほど気が遠くなる。これから先の事なんて分からない。でも、今この瞬間、この気持ちはずっと変わることはないと信じている。
星名を捉える航平の双眸の奥の瞳孔が開いていく。これまで何ひとつ我侭を言わなかった彼女からの初めてのお願いに、というよりは、意図することに驚いたのかもしれない。