Uncontrolled(アンコントロールド)
「その時になってみないと分からないけど、人間は理性があるじゃないですか。それまで恋人と積み重ねてきたものがあることを考えれば、耐えるしかないと思います」

「そこで耐えても、もう心は浮気しちゃってるようなもんだと思うけどね。星名ちゃんにとって、そのまま突っ走っちゃうやつは人間失格?」

「私とは人種が違うかなって思ってしまいます」

「駆け引きは得意そうなのに、真面目なんだね」

「……ここまでの会話って、先輩にとったら駆け引きにも及ばない、他愛もないお遊びなんですよね、きっと。ご存じの通り、私には一彰がいます。先輩は確かに魅力的な男性だし、そういった意味で惹かれてはいるけれど、だからって、異性として一歩を踏み出すところまでの気持ちは今はないです」

一彰に対しては、最初から淡い恋心のようなものしか抱くことができなかった。それがいつしか一緒にいることが当たり前みたいな家族愛にも近い情へと変化していき、現在に至っている。
情が移っているからなのか、恋がしたいと思っても、だからといって短絡的に彼との離別を選ぶのは違う気がしてしまう。
一彰への気持ちは、確かに盛り上がりに掛ける。このまま交際を継続していくのは相手に対して失礼だとも思うし、もっと早い段階でお互い違う道を選択することもできたかもしれない。
けれども、いつもここまで考えて、逆に、ここまで続いてきたからこそ、このご縁をこれからも大切にしていくべきなのかもしれないという結論が導き出される。
そこには、星名の慎重な性格も関係しているだろうが、20代後半となり、楽しいだけの恋をして幸せになれるのだろうかという焦りのようなものも出始めているからだ。

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