Uncontrolled(アンコントロールド)
朝倉は、星名がつれない態度を取っても気にしない。口を開きながら感慨深そうに頷く。

「当たり前なんだけど、星名ちゃん、大人になったんだね」

「すみません。バージンじゃなくて」

「そんなの、俺が一番よく知ってるし。俺だってチェリーじゃないし」

「寧ろ、だったら吃驚です」

「いや。今のは単に俺が見栄張っただけかもしれないから、何だったら今夜試してみてもいいよ」

さらりと隣りで言ってのける朝倉に、星名は口元に運んでいたカップから思わずコーヒーを噴き出しそうになる。ガラス越しに彼を見れば目が合って、どうする?とばかりに眉を押し上げてにこりと笑ってみせる。

「試しませんよ」

「えー? 残念だな」

言ってから朝倉に向き直れば、やはり、ちっとも残念そうではない。けれども、整ったその顔を一瞬だけ困ったように歪めて、星名の頭にふんわりと手のひらを置いた。

「先輩……?」

見つめ返してくるその瞳は何を言わんとしているのか、星名には分からない。
ほんの数秒にも数分にも思えるあいだ、朝倉はじっと星名を見つめていた。
どのくらいそうしていたのか、頭頂部に感じていた熱がふと軽くなり、と同時に彼が席から立ち上がる。

「今日はそろそろ帰ろうか」

その問いかけに、星名も頷いて席を立った。


< 33 / 59 >

この作品をシェア

pagetop